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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつて「茅野ちゃん」かく語りき-6

「クミコが相談なンて、メズラしーな」
そう言って、ジュンはオレンジティーをいれてくれた。
今日は村井邸でお茶会だ。セレブ気分を味わおう!と月イチで開いている茶話会。
自分のオススメの甘味を持ち寄ることに決めていて、今回あたしは駅裏の老舗店からシュークリームを買ってきた。シューの表面をカラメリゼしてあって、ほろ苦い甘さとみずみずしいカスタードクリームが最高のマッチング!なのだ。最近のお気に入りである。
「だって……こんなん、あんたにしか言えんもん」
ぐずぐずしながら言うと、ジュンはちょっと驚いたけれど、すぐにニンマリとした。
「なんよ、その顔」
「いや、うれシィんだ。で、マジメな相談なンだろ?クミコがそんな顔してるってコトは」
うう、コイツも鋭い。
古傷を引っ張り出すのは、年を取れば取るほど難しくなる。できることなら、知らないふりをしていたい。今のあたしがそうだ。
でも、どうにかすると決めたからには、こいつと正面から向き合うしかない。
「うん。結構、トラウマ的」
あたしがそこまで言うと、ジュンはカップを戻して両手を膝に置いた。こういう時、彼女は相づちも打たないし、話す相手の目も見ない。
だからあたしは、独り言でも言うみたいに素直に話すことができた。
「初めての時ね。すごく痛くて。何を言っても叫んでもやめてくれんかったんよ。ただ早く済んでくれって思ったことしか覚えとらん」
ジュンは軽くうつむいた。
「……それからも何度かそーいう機会はあったんじゃけど、未だに『気持ちいい』って感覚は無い。だからね、長続きせんくって」
あたしは、細く長く息を吐いた。
「なんで、オトナってエッチせないけんのかな。あたしは、あんなことせんでいい……」
ジュンがあたしの手にそっと自分の手を重ねた。気がつかない内に、あたしは手の平に爪が食い込む程にぎゅっと握りしめていた。
「大丈夫」
ゆっくり深呼吸をしてから、あたしは続けた。
「人それぞれだからええじゃんって思うんよ。でも、それはあたしの意見であって、相手もそうだとは限らんじゃんか。もしかしたら、相手はヤりたくてしょーがないかもしれんし。そしたら、もう、…………サヨナラするしかないんかな?」
やっと言い終えた頃には、せっかくのオレンジティーが冷めてしまっていた。
「ごめん、重い話で」
あたしは笑ってシュークリームにかぶりついた。何かしていないと、泣いてしまいそうだった。
「ツライな、それ」
ジュンは大きく息を吐いてから、腕を組んだ。
「藤川オトートは、何て言ってンだ?」
「ち、違うよ!藤川さんは何も知らんって。こんなこと言えるわけないじゃんか」
あたしが必死で否定すると、ジュンは眉をひそめて変な顔をした。
「男と女のハナシじゃないか。ソレこそ二人で話し合うべきだと思うぞ」
言葉が詰まる。確かにその通りかもしれない。
「クミコ一人でナントカできるコトじゃないだろう?私は、ゼンブ話して理解してもらうしかないと思う。そんなツラい思い出は、二人で半分コしてしまえ」
「でも……」
ジュンは首を横に振った。
「セックスは、しなきゃいけないってモンじゃない。クミコの方がそう思いこんでいるみたいだぞ?確かに、世の恋人同士の大半はケーケン済みかもしれない。でも、それが恋愛のすべてじゃない。プラトニックでも構わんだろう?……まあ、多少忍耐を要するかもしれんが」
そして、ジュンは「以上、村井純子でした」と付け加えた。
確かに、正しい意見だと思う。でも、言えるんかな。こんなこと、由良に。
「ン、ごめん。あんま答えになってないかも」
あたしの浮かない顔に気づいたジュンが、頭を下げる。
「あ、違うよ。ちゃんと話し合えるんかなって思って」
「ユックリでいいだろ?時間はたっぷりあるンだし」
「そうじゃね……」
こないだの由良の言葉を思い出す。
そうか。あたしたちには、二人だけのペースがある。別に、知らない誰かと比較するようなモノじゃない。色んな形があっていいはずだ、……よね。
あ?!!
やっぱりあたしには構想力が不足している。
「ジュン、ありがと。スッキリしたあ」
「おう。私もだ」
ジュンはにかっと笑って、シュークリームを一口で食べてしまった。


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