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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつて「茅野ちゃん」かく語りき-2

その後、あたしは授業を組んでいなかったので、ジュンと別れてから図書館へ向かった。
テスト期間でないからか、館内の人気はまばらだ。資料を重ねてパソコンとにらめっこしている学生がぽつぽつ目に入る。おそらく4年生だろうか、卒業論文とやらの準備をしているのだろう。
来年の自分の姿を見て背筋が伸びる思いをしながら、あたしは書架を巡った。五月になると講義も本格的となり、予習を欠かせなくなってきていて、来週の発表担当はあたしだった。
百人一首の中から自分の好きな歌を選び、自分なりの解釈を根拠つきで述べるというものだ。歌は決まっていたが、解釈の段階でつまづいていた。どうやってもありふれた感じにしか読み切れないのだ。
あたしには、構想力が足りない。
あたし、ちっちゃい頃からそーゆーの苦手なんよねえ。
なんてぶちぶち文句を言いながら訳本を探す。とにかく内容把握を入念にしておかなければ。
指で本を順繰りになぞりながら、背表紙をじっと見つめていた。
「え」
なんで、こんなモンがここにあんの……。
あたしの視線の先には、喜多川歌麿の『歌まくら』。いわゆる春画が集められたものだ。
「あ?らら」
気づかないうちにアート系のところまで来てしまったようだ。
手に取ってみると、リアルな描写ばかりが目につく。やけに大げさに描かれた性器や、女性の唇からこぼれる舌先。
しかし、さすが鮮やかなコントラスト、丁寧かつ大胆な筆さばきといった職人芸に感心する。芸術のことはよくわからないが、男女のそばに書かれた文章もなかなかうまい。
「…………ふうん」
仲睦まじく寄り添う二人の絵ばかりを見ていると、ついあてられてしまった。
忘れていたはずの思い出が呼び起こされる。



『痛いよ!やだ、やめてやっ……』
必死に抵抗しても、相手は言うことを聞いてくれない。
汗ばんだ胸に両の拳を思いっきり叩きつける。自分では精一杯のつもりだが、相手は全くこたえていないようだった。
『やだってば!!』
言葉の通じる人間には思えなかった。
絶え間なく同じ律動を繰り返すだけの肉のカタマリに、あたしは自分の身体から力が抜けるのを感じた。
不思議と、そうなると痛みは感じなかった。まるで幽体離脱でもして、動物みたいなその行為を高い所から見下ろしているような感覚。そうすると、楽だったのだ。とにかく、早くこの抜き差しが終わってほしかった。
あたしは、そのときの彼の顔すら覚えていない。
静かに本を閉じ、そっと書架に戻す。
「はああ……」
今日はやる気出んわ。明日にしよっと。ジュンのせいじゃ、要らんことまで思い出すし。
ふと顔を上げると、すっと白い影が目の前を通り過ぎた。ここは専門的分野の書架なので、あまり人が来ることはないのだが。
好奇心でその影を追いかける。そうっと、足音を立てないように。なんだかクノイチにでもなった気分で、変にわくわくした。
夢中で本棚を曲がろうとしたら、その影本人にぶつかってしまった。


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