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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-9

「ねぇ、辿」

遙と過ごす時間が急増してから少ししたある日。部室で袴から着替えていると友人達が傍に寄ってきた。
「ん?なに?」
言いにくそうに一人が口を開く。
「あの…さ……なんか、あったの?」
「え?」
首を傾げると更に別の一人が続ける。
「辿と蓬ちゃん達。ほら、いつも蓬ちゃんと古酉くんと中津くん四人一緒だったのに最近ずっと二組に分かれてるから…」
ねぇ、と互いに確認しあう彼女達。あたしは苦笑する。
「ううん、何もないよ」
「ええ?本当に?だって、じゃあ…」
「蓬と蓮、付き合ってるんだよ。だからお邪魔は消えてるわけ」
そう告げると、ええええ!?と悲鳴に似た声が部室にこだました。
「うそ!?え、蓬ちゃんと中津くんが?」
「知らなかった!ええー?」
みんながワイワイ騒ぎだす中、一人黙々と帰り支度を続けるあたし。その時、ふっと一人が言う。
「あたし達からみたら辿と古酉くんもいい感じに見えるんだけど?」
「やだなー、あたし達はそんなんじゃないよ」
にっこり笑って告げ、お先にと部室を出た。夕間暮れ。物の輪郭が闇と混ざって見える。
あたしはふうと息を空へ向けて吐いた。あれから十日、か。大分笑えるようになってきたと思う。
思いながら校舎へ入った。校舎内は外よりも随分薄暗く、さらに視界は悪い。残っている生徒は少ないようで、廊下を歩くのはあたし一人だ。
階段を駆け上がり、先を急ぐ。そうしてある地点まで来ると、いつものように温かな光が見えてきた。あたしは小走りになって光の中へ飛び込む。

「お待たせしましたっ」

光の中で本から顔を上げ、彼が笑う。
「お疲れさま」
「また本読んでたの?」
うん、と彼はあたしに本を手渡した。パラパラとめくってみる。ずらっと並んだ活字に睨まれ、あたしは頭が痛くなるのを感じた。
「わー駄目駄目!あたしには向いてないや」
返した本を苦笑しながら鞄に詰める遙。遙はいつもあたしを待つ間本を読んでいる。あたしには信じられない暇のつぶし方。
「遙、もしアレだったら待ってなくていいよ?あたしのこと」
出口に向かいながら遙を振り返って告げる。あたしが泣いたあの日から、遙は必ずあたしを待っていてくれるようになっていた。心配してくれてるんだろう。
「あたしなら、もう平気だからね?」
遙は柔らかな微笑みを崩さぬまま首を振った。
「別に苦でも何でもないから」
「でも、本読んでて飽きない?早く帰りたいなって思わない?」
ううん大丈夫、と遙は答える。
「なら、いいけど…」
あたしは呟くように言った。その遙の言葉が、笑顔が真実なのか分からなかったから。ポーカーフェイスって言うのかな、こういうの。

「あっ、辿!遙くん!」

静かな教室に突如響く声。少々びくつきながらドアに目をやると、一人の少女が教室に顔を出していた。
「蓬…やだ、びっくりしたじゃない」
「ごめんごめん。丁度電話しようと思ってたとこだったの」
ニコリと笑って蓬が教室へ入ってきた。
「ねぇ、明後日暇?」
明後日って、日曜日?頭の片隅からカレンダーを引っ張りだして記憶をたどる。
「…うん、多分。何も予定無いと思うけど」
「俺もだけど」
不思議そうな遙。あたしも首を傾げる。
「よかった!はいこれ」
満面の笑みで蓬が手渡したもの。それは――…
「遊園地ご招待券…?」
あたしは手の内にある紙切れの文字を読んでみた。え?何でこれを?
「実はね、親戚の人に四枚もらっちゃって。だから四人で行きたいなって思ったの。ね、いいでしょ?」
四人……って、あたしと遙と蓬と……蓮ってこと?そんな……
あたしは困惑した視線を遙に投げた。ふと彼も視線を向ける。彼の澄んだ、優しいそれとあたしのが重なる。
「辿が行くなら、俺も行くよ」
遙が優しく言葉を紡ぐ。ひどい、それあたしの台詞なのに。
言おうと思った言葉を取られ、少し膨れながら再びチケットに視線を落とした。


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