投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

はるか、風、遠くの最初へ はるか、風、遠く 9 はるか、風、遠く 11 はるか、風、遠くの最後へ

はるか、風、遠く-10

どうしよう?折角誘ってくれたけど、でもそれは、あたしと遙にとっては地獄じゃないか。限界が訪れても、その日一日は我慢しなきゃいけない、まるで耐久レースだよ。
やっぱり断った方が…

「お願い、辿!ね?」
断りの言葉を吐く為息を吸った瞬間、蓬が両手を合わせてあたしに頭を下げた。
「お願い、お願い。お願いしますっ」
「あ…ぅ……」
出かかった言葉を飲み込む。そんな必死に頼まないでよ、断れないじゃないの。
もう一度遙を見た。苦笑を浮かべた顔でこくんと頷く彼。あたしも小さく頷き返し、再び蓬を見る。
「分かった、行く」
「ほんとに!?ありがとうっ!」
心から嬉しそうに笑う蓬。これでいいんだ、親友のためだ、と言い聞かせる。
「じゃあ10時に現地集合だからね」
遅刻しないでよと念を押して、蓬は教室を出ていった。取り残されたあたし達。

「ごめん…」

遙を振り返る。
「ちゃんと断れなかった」
お人好しな自分を恨む。頼まれたらイヤって言えないんだもん…。
遙はにこ、と笑ってあたしに近付き、頭を二、三度軽く叩いた。
「それが辿のいいところだからね。ほら、帰ろう」
遙は絶対誰かを咎めたり怒ったり傷つけたりしない。本当に優しい。
「うん…」
前を歩く大きな遙の背を見るあたし。そして思う。
遙はその優しさの分我慢しているんじゃないかって。本当は今だって腹が立って仕様がないんじゃないかって。
あたしが今頼れるのは遙しかいないから、だから余計に心配になる。いつかその蓄まったものが爆発して、一緒に居てくれなくなるんじゃないかって。
そんなこと、言えないけれど。
悶々としたものを心に宿しながら、あたしは家路に着く。地獄の日曜を明後日に控えながら。


――SUNDAY

バス停に降り立つなりダッシュするあたし。目覚ましのバカ!なんで今日に限って電池切れちゃうのよ。
走ればギリギリ間に合いそうなバスには乗れたけれど、お陰様で髪は結えなかったし服は適当だしで最悪最低!
そんなことを考えながら懸命に走る。息は切れ切れ。ロードワークより頑張っちゃってるよ、あたし。

観覧車が近づいてくる。もう後数百メートルだろう。左腕をちらりと見る。腕時計が10時キッカリを指していた。
「ああー!遅刻だーー!」
と嘆いてみてもどうにもならない。とにかく急ごう。


「もう、辿ったらー。遅刻しないでねって念押したのに」
なんとか入場ゲートに辿り着いた時にはもう三人とも揃っていた。
「ご、めん…寝坊、しちゃって…」
途切れ途切れに謝るあたし。息が苦しい。
「でも頑張って走って来たみたいだし、よく頑張ったで賞あげる」
顔を上げると同時に蓬がいこいこと頭を撫でてくれた。
「じゃあ行こうぜ」
蓮が腕を掲げて言う。
「よっしゃ、遊びまくるぞー!」
先頭切って歩く蓮と蓬の背を見つめる。何処からどう見ても幸せな恋人。唇を一文字に結んで胸の痛みに耐える。


はるか、風、遠くの最初へ はるか、風、遠く 9 はるか、風、遠く 11 はるか、風、遠くの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前