はるか、風、遠く-24
「……ばっかだなぁ、あたし」
自嘲する。
なんで気付かなかったんだろう?あたし、蓮に告白されたときも、その後のうわの空だった時も、誰のことを考えていたの?
全身が、心までもが必要としているのは誰?
感じていたのにしっかり考えたことがなかった。傍にいることが当たり前すぎて。当然、過ぎて……
弾かれたように立ち上がる。もたつきながら教室を飛び出した。
暗がりに響く足音。何も見えないことが恐怖となる。光がなくて、あたしの行くべき道が分からない。
ねぇ遙。
遙がいなかったらあたしの周りは真っ暗なの。
遙がいてくれるから、あたしは歩くことができる。遙があたしの光なんだよ。
あなたがいなくちゃ、生きていかれない――…
一階まで階段をかけ下り、生徒玄関へ続く廊下を走る。一階の廊下は蛍光灯が明るく照らしていた。でも遙の姿はどこにも見えない。
息が苦しかった。だけどあたしは走るのを止めない。だって追い付けないからといって追うのを止めてはいけないのでしょ?
止めなければ見つけられる可能性は消えないのでしょ?
だからあたしは、走るのを止めない。遙に、あなたに想いを届けるまで…
「あ、辿!」
前方をこちらに向かって歩いてきていた人物が手を振る。
「今迎えにいこうかって思ってたんだ、遙に教室にいたって聞いてさ」
蓮、だった。その笑顔に胸が痛む。だけどやっぱり――…
「ごめん、蓮…」
顔を伏せて、蓮の横を駆け抜けた。ごめんね、蓮。あなたじゃ駄目なんだ。誰もあの人の代わりにはなれない。
遙一人、遙だけ、だから…
玄関の扉の向こうに見えるのは濃青色の空間。どうやら天にかかる月が青白い光を地上に降り注いでいるようだ。
その光を纏って、軒先で空を見上げる人影。す、と地上へ視線を戻し、彼は動く。
待って、遙!待って!
「遙っ!」
全てがスローモーションに感じられる。振り返る遙も、近づく彼の姿も、流れる景色も。
「わ……」
遙が慌てて二人分の体重を手摺りに捕まり支えた。あたしが思い切り遙に抱きついたので、その反動に耐え切れず彼は後方へ倒れかかったのである。
「…辿?」
狂おしいほど大好きな声。すく傍で聞こえる。
「…あたし、虹の向こうにあるものをやっと見つけたんだ。何だと思う?」
触れ合っている部分から遙が首を振ったのが感じてとれた。