はるか、風、遠く-11
「大丈夫?少し休む?」
すぐ横で温かな声。結んだ唇だけでなく、胸の痛みも少し緩んだ気がした。
「おはよう、遙。大丈夫、平気だよ。いつも走ってるしね」
走るように腕を振って見せると、遙は笑って言った。
「いつもより随分必死だった気がするけど?」
「そ、そんなことないよ。あたしはいつも一生懸命だもん」
はいはい、と軽く受け流しながら、遙はあたしの背を押す。入り口のすぐ傍では先に行った二人がこちらを見て手を振っていた。
その時。風に乗って。
「知ってるよ」
そんな言葉が聞こえた。空耳だったのかもしれない。
だけど、聞こえた気がしたんだ。あたしには。
「何から乗ろうか?」
園内に入ってから周囲を見渡す。日曜日とだけあり、かなりの人出。多くが家族連れだ。
「やっぱジェットコースターだろ」
と蓮。
「私は絶叫系駄目だからコーヒーカップとかの方がいいなぁ」
と蓬。いつもあたしのお姉さんをしてくれている彼女が今日は一人の女の子になっている。
誰かに甘えられるなんて、なんて羨ましいんだろう。しかもそれが蓮なんて……
「辿と遙くんは?何乗りたい?」
会話が突然振られ、あたしはかなりハッとした。あたしも蓮と同じく絶叫系が好きだから「ジェットコースター」って言いたかったんだ、本当は。
でも、それは許されない。
「いいよ、二人で決めなよ。あたしと遙は別回ってくるから、ね、遙」
見上げると、遙はあたしに合わせて頷いてくれた。
「やだ、辿ったら。折角四人で来たのに」
蓬が頬を染めてあたしに言う。蓮は何も言わない。あの放課後から、彼とは気まずい状態が続いていた。
「だってもともとは蓬達のデートだったところに紛れ込んでるんだしさ」
ニコッと笑って見せると蓬は更に頬を赤くして「ありがとう」と小さく言った。
『二人で居たい』やっぱりそれが本音なんだろう。
じゃあ、と蓬は蓮の腕をとって弾むように人混みへと消えていった。
「さてと」
自分を奮い立たせるように元気よく遙の方を向いた。
「あたし達は何処に行こうか?」
遙はいつものあの笑顔を浮かべて、思った通りの言葉を口にした。
「辿の行きたいところに」
おばけ屋敷にジェットコースター。ミラーハウスにバイキング。散々乗り物に乗り、あたし達ははしゃぎまくった。ううん、あたしが、かな。
遙は大人びた笑顔であたしの傍にいるだけ。まるで保護者じゃないか、なんて思ったりする。
それでも彼の存在は、今のあたしにはとても大きなものだった。
お昼も回り、太陽が真南から西寄りに輝き始めた頃、遙の携帯が鳴った。
「あ、蓬だ」
サブディスプレイを見た遙がそう言い、電話に出る。
「はい」
あたしは左手にあるアイスクリームに意識を集中させる。
何も考えたくなかったから。あの二人のことなんて忘れて、ただ無邪気に笑っていたかったから。