冷たい指・女教師小泉怜香 最終話-9
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いつもと同じ昼休み。
中庭の芝生には気持ちのいい春の陽射しがさしている。
あれ以来、亮は一度も保健室に姿を見せない。
こうなることは初めからわかっていたのだ。
自分でも驚くほど、悲しみや怒りはなかった。
自己中で
我が儘で
自意識過剰で
愚か――――。
それが高校生という生き物だと、私は最初からあきらめていたのかもしれない。
昼休みにコーヒーをたてることもソワソワすることももうない。
教師としてのいつものありふれた日常を、私はただ淡々と過ごしていく。
亮とはつきあっていたという実感もなく、ふられたという確信もないままで―――自分が恋をしていたのかどうかさえわからなかった。
ただただ、言いようのない虚しさだけが私を包んでいた。
―――教師とはなんてタイクツな職業なんだろう。
ため息をつきながら保健室を見渡した時、亮がいつも座っていた窓際の丸椅子が目に留まった。
ここに座って中庭を眺めている時は、いつも穏やかな優しい眼差しをしていた亮。
その横顔は、私にだけ見せてくれる本当の亮の姿のような気がしていた。
あの時、彼の目にはどんな景色が見えていたのだろうか……。
そんなことを考えながら、私は何気なくその丸椅子に腰を下ろした。
彼がしていたのと同じように、机の上のペンを指先でもてあそびながらぼんやりと中庭を眺めてみる。
亮の目に映っていた世界。
やわらかな陽射し。
吹き抜ける穏やかな風。
穏やかな昼休みの光景がそこにはあった。
一見無秩序に見えて、生徒たちには縄張りのようなものがあって、昼休みをどこで過ごすかというのは毎日だいたい決まっているものだ。
ベンチでじゃれあうカップル。
友達どうし談笑しあう女子の群れ。
みんなこの中庭の常連たちばかりだ。
そして―――群れからぽつんとはぐれるように、芝生の上で一人のんびりとパンを食べる生徒――。
………あれは……