冷たい指・女教師小泉怜香 最終話-11
一人でパンを食べている博美をからかうようなしぐさをしながら、親しげに隣に腰をおろす。
少し驚いた表情を見せながらも、嬉しそうな微笑みを浮かべる博美。
目の前の光景の意味を理解するのに、しばらく時間がかかった。
「………あの二人……」
山門彰吾に特定の彼女が出来たという噂は数日前から学校に広がり始めていた。
「ヤマト先輩があんな地味な人を彼女にするなんて信じられない……」
山門彰吾のファンであろう女子生徒たちからは、そんな中傷めいた言葉も何度か聞いている。
しかし、そういう噂話に対して興味が薄い私は、その「彼女」があの時の相原博美だということにまったく気がついていなかったのだ。
パズルのピースは、全て揃った。
出来上がったのは、自分で自分を傷つける、悲しくも美しい青年の姿だった――――。
亮は初めて出来た親友と、ずっと大切にしてきた恋の狭間で、苦しんでいたのだ。
相原博美も
山門彰吾も
そしてこの私も――。
誰も傷つけないようにするために、わざと自分一人が悪者になった亮。
誰よりも冷静で、誰よりも冷たいフリをしているけれど……あなたはなんて優しくて、なんて不器用な人なんだろう。
切なさと愛おしさが込み上げて来て、胸がたまらなく苦しくなった。
亮がここに来なくなって以来初めて――――私は泣いた。
亮―――。
あなたにとって私は、単なる一人の教師かもしれない。
だけど、私にとってあなたは特別な人になってしまった。
あなたは私を「教師」という狭苦しい檻から解放したのだ。
なぜならたった今私は―――
まるで恋愛小説のように―――
あなたという「生徒」に本気で恋をしてしまったのだから。
END