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「今日もまたあの場所で」
【青春 恋愛小説】

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「今日もまたあの場所で」-2

――――キーンコーンカーン・・・

 やっと今日の授業が終わった。僕はさっさと自分の鞄を掴み、教室を出た。別に教室に残ってもすること無いし。でも、ま、家に帰ってもすることないが。勉強すればいいんだけど、やっと退屈な授業が終わったのにまたすぐに勉強だなんて、脳に機能障害が発生しかねない。今から図書館で勉強するなんて言ってる同級生をおかしいんじゃないかと思う。と、いうことで生徒玄関へ向かおうと階段に行ったのだが、ふと思い立って、下ではなく上へと向かう方の階段へ足をかけた。

 「立入禁止」の札のかかった縄をくぐり、少し錆び付いた重い扉を開いた。ギギィ、という耳障りな音と同時にできた隙間から吹き込んだ風が、僕の体をするりと抜けていった。

僕は扉をくぐったすぐ隣についている梯子を上り、昨日と同じ場所に腰掛けた。空はまだ明るい。まだ4時過ぎくらいだから、日が沈み始めるまでまだ1時間くらいあるな。そう。僕が今ここに来ているのは夕陽を見るため。どうせ暇を持て余すんだったら、退廃的な雰囲気が漂うだけの自分の部屋で過ごすのより、キレーな景色でも眺めていよう、と、そんな短絡的な考えで、ここに来た。とりあえず少し時間を潰すために鞄の中から読みかけの文庫本を取り出し、栞を挟んであるページを開き、ごろんと横になった。と、

カシャン…

下のほうからフェンスの揺れる音。誰か来た?体を起こし、下を覗いてみた。案の定、人影が。ん?制服じゃない。じゃあいったいこいつは…あっ。僕はその服装に見覚えがあることに気付いた。先刻、僕の睡眠を妨げ、後頭部に深刻なダメージ(言い過ぎか)を与えてくれたあの教師―岡崎―だ。何しに来たんだ?こんなところに(まあ、俺もだけど)。僕は暫く様子を眺めることにした。ごそ、とポケットから何かを取り出した。それの正体に少なからず驚いた。タバコだ。岡崎がタバコを吸っているところなんて見たこと無いし、タバコを吸うなんてイメージは露ほどもなかった。岡崎はフェンスに寄りかかってタバコを吸い始めた。むせたりなんてせず、慣れた様子でタバコを燻らせる。タバコの先から糸をひくようにあがった煙は、吹く風によってすぐにバラバラに散らされる。その紫煙の向こうの顔は、なんとも暗鬱な、気怠そうな表情を浮かべている。人当たりのよさそうな笑顔を浮かべているところしか見たことが無かったので、それにも驚いた。本当にここに居るのは「あの」岡崎だろうか。と、疑いの念すらちらっと浮かんだ。と、その顔が、ふっ、と上をむいた。そう、僕のほうに。僕のほうはずっと見ていた訳だから、目が合ってしまうのは必然な訳で。目が合った瞬間、まあ少しは驚いたけど、別に後ろめたいことがあるわけでも無いし(強いて言うならここは立入禁止だが、それを言うなら向こうだって同罪だ)別に何ということも無い。しかし岡崎はまるで空き巣に入った泥棒が住人に見つかった時に浮かべるような、驚愕と狼狽とが入り混じった表情で、タバコを右手の人差し指と中指で挟んだ状態のまま固まっていた。それがなんだかひどく滑稽で、からかうような口調で話しかけた。

「どうも。なにしてんスか?こんなとこで。」

岡崎は慌ててタバコを隠し、何か言おうと口を開いたが、何も出てこない、といった感じだ。またそれがおかしくて、さらに追い討ちをかけた。

「先生ってタバコ吸うんスね。なかなかカッコいい吸い方でしたよ。」

シニカルな感じで言ってみた。どんなリアクションをとってくれるかと思ったが、今度は意外な行動に出た。諦めたように小さな溜め息をつき、タバコを踏み消すと、寄りかかっていたフェンスから体を離した。帰るのかな、と思ったが、違った。なんと梯子に足をかけ、こっちに登ってきた。そして、とすっ、と腰をおろすと、

「悪い?別にタバコくらい吸うわよ。」

開き直ったような口調で言ってきた。強い目で、こっちを見ている。

「べつに…悪か無いっスけど。」

その目線に気圧された訳では無いが、とりあえずそう答えるよりほか無い。が、次の言葉はまたしても意外なものだった。

「ふぅん…私は、悪いと思ってるんだけど。」

というか、意味が分からなかった。怪訝そうな僕の表情を読み取ってか、次を続けた。

「タバコよ。私が、タバコ吸うこと。」

ますます分からない。

「は?言ってること、矛盾してるっスよ。」

「まあ、そうだけど。」

何言ってるんだコイツ。とか思ってみたりして。

「正確には、タバコ吸ってるところ見られるのが、かな。」

まだよく理解していない僕を察してか、さらに続けた。

「明るく優しくまじめな良い先生。ってイメージでしょう?私って。そんな私がタバコ吸ってるなんて、やっぱりイメージ的にねぇ。」


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