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「今日もまたあの場所で」
【青春 恋愛小説】

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「今日もまたあの場所で」-7

「で、別れたのが、その年の冬。いや、別れたっていうより、捨てられたって感じかな。うーんそれも違うか、そもそも彼にとって私はなんでもない存在だったのよ。別れた日の前の前の日になるかな、私見たのよ。彼が他の女の人といるところ。腕なんかも組んじゃって、そりゃ楽しそうだったわ。でも私、彼を信じようとした。何かの間違いだって、もしかしたら妹とか姉とかかも、とか。でもどうしても黙っていられなくて、彼に話したの。でもそのときもまだ信じてた、彼のこと。彼が間違いだって言ってたら私それを信じちゃってたと思う。でも彼、なんの言い訳もしなかった。じゃあ別れよう、ってそう言ったの。私は慌てて引き止めたの。そんなつもりで言ったんじゃないの、って。そのとき泣いてたかもしれない。でも彼は驚くほど冷めた目で私のことを見て言ったの。『もともとお前なんか遊びだった』って。それから、『お前俺の浮気を見つけたつもりだろうけどあっちが本命だから。お前が浮気だから。』って。それ聞いた時、それまで彼が私に言ってくれたいろんな言葉と、それに浮かれてた自分の姿がリフレインしたの。その言葉が全部嘘だったって分かって呆然としたわ。悲しいを通り越してただ虚しかった。いっぺんに人が信じられなくなった。…いつだったか話したわよね、タバコ吸い始めた時の話。それもその時の話。」

岡崎はそこまで話し、自嘲気味に笑ったが、その顔は寂しげだった。

「…その時には思ったのになあ。もう人を好きにならないって。」

さっき感じた痛みが、またぶりかえした。『その時には思ったのになあ』つまり今は違う。好きな人がいるということだ。さっきよりももっと刺さった針の数は多かった。

「今はいるんだ?好きな人。」

口が勝手にそう訊いていた。無意識に、問いただすような口調になっていた。

「誰だ?」

聞いてどうする。言った瞬間後悔した。岡崎は僕の問いに眉をきつくよせて答えた。

「誰?今、誰って聞いたの?」

そんなこと和樹には関係ないでしょう、とか言われるかと思った。

でも岡崎は、呆れた、といった感じの溜め息をついて黙って僕を睨んだ。その目はなにかを探っているようでもあった。ひどく気まずい沈黙が流れ、暫くして岡崎がその沈黙を破った。

「あんたねぇ、本当に分かってないみたいね。……和樹以外いないじゃない。」

「は?」

「私が好きな人、和樹に決まってんでしょ、って言ってんの。」

その言葉は水面に投げ込まれた石のように大きなしぶきを上げて僕の心を波立たせ、その衝撃で、刺さっていた針がぜんぶ抜け落ちた。


 あの日―岡崎が僕に想いを伝えてくれた日―から僕らの仲は急速に進展していった。…ということもなく、僕らの関係は相変わらずのまま。あの後、あわてて僕も自分の気持ちをきちんと伝えたが、不機嫌な声で「ありがとう。」と言われただけだった。岡崎にしてみれば、とっくに僕らは相思相愛の関係だと思っていたようで、僕の「好きな人って誰だ?」発言にかなり怒ったようだ。で、その次の日からもいつもどおり放課後屋上で話した。岡崎の態度は変わらないままだった。でも僕はそれでも、いや、それで良かった。何も変わらなくても、もともと二人の時間はこの上ないほど楽しかった訳だし、あの居心地のいい距離感が僕は好きだった。それに想いが通じ合っているということが分かっているということだけで十分幸せだった。ただ、普段学校で話す時、岡崎は『岡崎先生』だった。いつのもあの笑顔で、僕の嫌いなあの顔で話した。呼び方も「和樹」ではなく「高沢クン」だった。その度僕の心は曇っていった。でも、放課後には心は晴れた。夕陽に照らされながら、彼女が僕の名前を呼び、他の人には決して見せない顔を見せる度、彼女の心の雲を僕が消して行く度、僕の心から雲が一つずつ消えていった。それはとても不思議で、素敵な感覚だった。

 窓の外の空を眺めた。何も遮るものの無い、どこまでも澄み渡る青い空。今日も放課後が楽しみだ。


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