桜色の約束A-1
彼に見とれてどれくらいの時間が過ぎただろうか。
彼はそんな私をみて、くすりと微笑み、こう言った。
「センセ?桜の花言葉って知ってる?」
「え?あ…分からない…かな。」
しどろもどろな私。教師なのになんかカッコ悪い。でも…これが精一杯。
彼は続けた。
「そーなんだぁ?せっかく名前が『桜』なのに。」
ドキっ!!
私の名前、もう覚えてくれたんだ…。今朝の始業式で…?
「じゃあ教えたげる。『優れた美人』それが桜の花言葉だよ。まるでセンセーのことみたいだぁね。」
「えっ!いや!そんなこと…なっ」
!?
私はいきなり彼に抱き寄せられ、唇が重なった。
優しいキス。
こんなキスは、初めてだった。
「桜庭カオル。それが俺の名前。覚えておいて。」
彼は耳元でそうささやきながら私の後頭部を二度優しく撫でた。
「また明日ね。セーンセ」
呆然と立ち尽くし、美しい少年の背を見送る私。
私の指は、まだ彼の温もりの残る唇へと伸びていた。
まるで、今まで彼とふれていたという証拠を確かめるかのように。
ねえカオル?
明日は学校休みだよ……
桜の花びらが彼と私の間にヒラヒラと舞い散った――