冷たい指・女教師小泉怜香C-4
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昼休みが終わってしまうと、私の一日はほとんど無意味なものになる。
亮に会えないまま午後の授業が始まると、自分でも嫌になってしまうくらい私は完全に無気力になってしまうのだ。
6限目が終わるまであと30分。
『今日も来なかったな……』
放課後の職員会議で使う書類をチェックしながら、ぼんやりとそんなことを考えていた時、不意に入り口の扉がガラリと開いた。
「セーンセ」
ハッとして顔をあげた瞬間、心臓が激しく跳ね上がる。
ニヤリと悪戯っ子のように笑いながら顔を覗かせたのは、私が今一番会いたいと思っていた柳沢亮―――その人だった。
「あらぁ……どしたの?」
出来るだけ平静を装ったつもりだったが、必要以上に媚びるような表情になってしまったかもしれない。
昼休み以外に――まして授業中に彼がここに来ることなんて今まで一度もなかったから、自分でも戸惑うくらい気持ちが高揚している。
無意識のうちに立ち上がって、いそいそと彼を迎え入れようとした時、その背後に隠れるように一人の女子生徒が立っていることに私はようやく気がついた。
『――いけない――』
恐らく私は今、教師ではなく完全に「女の顔」をしていただろうと思う。
気付くのがもう少し遅かったら、とんでもないことを口走ってしまっていたかもしれない。
亮の背後に重なるように立っているその女生徒が、探るような眼で私を見ている。
私と亮の間にあるただならぬ空気を一瞬にして敏感に読み取ったようだ。
清純そうな顔をしているけれど、この子、処女じゃないな――そんな気がした。
カラスの濡れ羽のような真っ直ぐな黒髪。
綺麗に切り揃えられた前髪の下から覗く、全てを見透かすような強い視線は、どことなく亮に似ているように感じられる。
校内のほとんどの生徒の顔は認識している自信があったが、この女子生徒の顔は不思議なくらい印象になかった。
しかしよく見ればくっきりとした瞳の神秘的な美少女だ。
名札には「3年D組相原博美」と書かれている。