冷たい指・女教師小泉怜香C-2
おそらくヤマトが来るまでは、亮には親友と呼べるほど仲のいい友達はいなかったのだろうと思う。
精神的に大人びすぎている彼は、男女を問わず自分よりはるかにガキっぽいクラスメートには端(はな)から興味がないように見えた。
そんな彼だからこそ私は、自分が亮にとって一番の理解者であると、心のどこかで勝手に優越感に浸っていたのだ――――。
彼に親しい友人が出来たことを、私は教師として喜ばしく思うべきなのだろう。
少なくとも毎日のように保健室に入り浸っていた頃よりは、よほど健全な姿に違いない。
『男友達に嫉妬するなんて馬鹿みたい―――』
頭ではそうわかっていても、気持ちが納得していない。
教科担任を持たない私にとって、亮との唯一の接点を持つことが出来る昼休みの40分間は、本当に貴重な時間なのだ。
亮がまだ頻繁に保健室に来ていた頃、私は彼に一度だけ聞いたことがある。
「友達とは――お昼食べたりしないの?」
すると亮は、少し考えてからこう答えた。
「……俺……そういうのどうでもいいから……」
少し自虐的にも見える穏やかな微笑み。
大人びているように見えて、彼は本当は寂しいのかもしれない。
「…それより……俺が来たら………先生……迷惑…かな?」
いつもの冷めた表情とは違う甘えるような上目使い。
まるで叱られた仔犬のような切なげな瞳に、胸がきゅうっと音をたてて締め付けられる。
「好き」という甘い言葉も、キスの一つさえもくれないくせに、そんな愛おしい表情だけを私に見せるなんて、本当にズルいと思う。
「め…迷惑なんかじゃないよ……べ…別に……」
あまりにも胸が高鳴るから、まともに顔を見ていることが出来なくなって、私は慌てて視線をそらした。
「……か…彼女とかも……いないの?」
そっぽを向いたまま、出来るだけ本心を悟られぬようにそっけない調子で聞くと、亮は少しの沈黙のあと、優しい声でこう言った。
「……いないよ……」
その答えに、呆れるくらいホッとしている自分がいる。