冷たい指・女教師小泉怜香C-10
どれくらい放心していたのか、亮にゆっくりと身体を引き離されて私はやっと我に返った。
気がつけば保健室の中は物音一つしない静けさで、衝立の向こうの相原博美も不気味なくらい気配を消している。
いつの間にかギュッと閉じていたまぶたを恐る恐る開くと、目の前にはゾッとするほど冷ややかな笑みを浮かべた亮の顔があった。
「……センセー……アソコに香水つけてんの?……エロいね」
アクメの後のうっとりとした余韻が一気に引いていくのがわかった。
ずっと待ち焦がれていた亮との交わり。
彼の「全て」が欲しいなんて高望みをするつもりは、最初から毛頭なかった。
でも、自分でも気付かないうちに、私は亮の優しさや愛情を情けないくらい期待していたのかもしれない。
そしてチャイムが鳴った。
亮はあっけなく私の身体を離れると、視線を合わせようともせずに保健室の扉をガラリと開けた。
「俺、部活いくね。『親友の』ヤマトが待ってるから」
「親友のヤマト」というわざとらしい言い回しが、まるで私への訣別宣言のように感じられる。
亮はもうここへは来ないつもりなのかもしれない―――。
何故かはわからないが、そんな気がした。
遠ざかる亮の足音。
駄目――このままでは終われない――。
私は教師という立場を完全に忘れて、小泉怜香という一人の女になっていた。
「……亮、待ってよ!」
私は夢中で保健室を飛び出していた。
END