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「アジアの闇を追え!」
【ミステリー その他小説】

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「アジアの闇を追え!〜後編〜」-2

 ガレージの現場には多数のコンドームが散乱し、中国製のピルが落ちていたという。被害者を長期にわたって監禁しておく意図がここからも窺われる。ピルは尼崎の漢方薬の店からネットで購入したようだ。だが、中国製というのが俺にはひっかかった。
 スタンガン、SM用のロープ、拘束具などは三橋の携帯を使ってやはりネットでまとめ買いしていた。これも尼崎の店である。これらはすべて北川のフィットから押収されている。なぜ三橋の携帯を使ったのかは不明である。
 もう一つ不明なことがある。店の勤務シフトだ。北川と三橋、あと身重の北川の嫁だけで本当に回るのか。もしそうなら北川と三橋は店に出ずっぱりにならざるを得ない。そして店の閉まっているわずかな時間に、睡眠時間を削ってこんな犯行に及んだことになる。やはり保証人を引き受けたという北川兄の存在が気にかかる。
 一審の判決はやや意外なものだった。三橋は求刑通りだったが、北川には求刑より長い12年が言い渡された。退廷時、北川は弁護士とエレベーターホールのところでなにやら言葉を交わした。三橋は一審を受け入れ、北川だけが控訴した。

 裁判が一段落したので、俺たちは事件に関与した可能性のあるマル暴の絞り込みを始めた。具体的には山岸組のいくつかをマークしていた。しかし、意外な情報がもたらされることになる。その情報はある日、闇金被害者などを支援している弁護士らのグループからもたらされた。事件に関与したのは、関東の広域暴力団、住田会の可能性があるというものだった。水谷さんが言う。
「住田会か、あいつら、女子供でも平気で殴るぞ」
「でも大阪の住田会って、福田総業くらいしかないですよね」
「福田の会長は元やながわ組のあきら連合だろ。山岸にも顔が利くんだよ」
 住田会はもとは住田連合といわれた。ピラミッド型の山岸組はしのぎに関しても掟が具体的に定められている。とくに6代目になってからは組員の覚醒剤使用も禁止されるなどより厳しくなった。一方の住田会は関東でも5つのブロックに分かれ、それぞれが独立色の高い連合体である。
「そう言えば、栃木の住田会組員が最近人身売買事件で逮捕されましたね」
「北ともつながりは深い。しのぎも山岸より苦労してる。それは確かだが」

 俺たちの取材は難航していた。だが、全く進展がないわけでもなかった。北川の兄がかつて放火事件を起こしていたとの噂を聞きつけ、水谷さんがこれを追った。俺は住田会傘下の小森会を調べ始めた。小森会の会長は拉致問題に関わる右翼団体の会長も兼ねていた。その小森会のフロント企業が、梅田と阿倍野に存在することがわかった。とくに阿倍野をマークした。金に困っていた北川や三橋が接触した形跡はないか。そんな矢先のことだった。

「福本、俺たち、負けたみたいだな」
「え?」
「辞令だ。俺と水谷は異動になる。お前んとこにも程なく届くぞ」
「事件から手を引けということですね? 東京の圧力ですか?」
 東京Y社が突出した行動を取りたがる大阪の俺たちを苦々しく思っていたのは知っている。だが、俺たちがここで手を引いたらもう事件を追うマスコミが皆無になる。
「俺も水谷も、妻子があるからな。俺たちは所詮サラリーマンなんだ。異動の日まで、ここで全力を尽くすしかない。福本、お前ももうよくやった。今後のことは、よく頭を冷やしてから結論を出せよ」
 俺のハラは決まっていた。フリーになっても事件を追う、初めからそのつもりだった。


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