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「アジアの闇を追え!」
【ミステリー その他小説】

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「アジアの闇を追え!〜後編〜」-1

「北川10年、三橋も10年。ミズさん、検察なめてますね」
「北川に法廷で開き直られるのがよっぽど怖いんだな」
 俺たちの言いたかったことはこうだ。検察の作文によると、事件の立案から指揮まですべてを北川が主導、三橋はパシリにすぎない。なのに同じ量刑を求刑したのである。おそらく北川は事件の背後関係をかなりの部分知っている。その北川を黙らせなければ、いままでの隠蔽工作がすべて無駄になってしまう。服役中の女房と生まれてくる子供の面倒、出所後のことまであらゆる配慮で丸め込んだのだろう。二人に同じ10年を求刑したのは、北川に配慮した検察ギリギリの苦肉の策としか俺たちには思えなかった。
「福、どうせシャンシャン裁判だろうが、お前傍聴してこいよ。いけば何かわかるかもしれん。抽選ならどんな奴が並ぶか、駐車場で車のナンバーをメモったり写真撮ってる怪しい奴もいるかもしれん」
 やばい事件の裁判になると、労務者風の男達が抽選にゾロゾロと並ぶことがある。彼らは雇われているのだ。そうやって一般人が傍聴の抽選に当たる確率を少しでも引き下げようとするのである。



「デスク、行ってきましたよ。彼女、法廷に出てきました。カーテンで仕切ってましたが、手首の傷、傍聴席からもはっきり見えました」
「そうか、別室でモニターじゃなかったのか。で、どうだったんだ? 今日のところは」
「まず犯行車両は北川兄所有のフィットなんですが、全く公開しませんでした。代わりに三橋のシビックを詳細に」
「何だよ、代わりってのは」
「要するに被害者をレイプしたあと、フィットは北川のガレージに戻したわけです。で被害者を改めて三橋のシビックに縛りつけて」
「そっちの車だけはしっかり公開したわけだな。しかしだよ、何でそんな面倒臭いことすんだ。三橋がわざわざ北川の車を北川のガレージまで取りにいったのか。そんならはじめから自分のシビックを取りにいきゃいいじゃねえか」
「フィットもシビックも変わんないっすよね。被害者は中肉中背、160ちょっとあります。フィットの後部座席じゃ狭すぎですよ。だからこの間ミズさんとも言ったように、間にワンボックスカーが挟まると辻褄が合うんです」
「だな。フィットは店と待ち合わせ場所との往復用。犯行車両は別にあって、シビックはガレージでの監禁用だな」
「もう一つ変なことがあるんです。北川は免停中です。だから事件の当日、免停中の北川がたまたま北川兄のフィットのキーを持っていたことになるんです。しかも北川はバイクで車を取りに行く三橋に給油を指示してるんです」
「ガソリンがないことまで知ってたのか? ところでその北川の兄貴は事情聴取すら受けてねえんじゃないか?」
「店の保証人も兄貴がなったようですよ」



 ここで犯行当日を時系列的にみてみる。閉店直後、零時過ぎに二人は被害者を捕獲。それから三橋がバイクで北川の車を取りに行く。北川は店に残って残務整理と翌日の開店準備。二人が被害者を連れて店を出るのが5時過ぎ。この時間はどう考えても長すぎる。現に北川は肉の配送業者が早朝に店を訪れることを心配し、大慌てで三橋のガレージを後にしている。なぜ店に明け方まで留まる必要があったのか。この空白の時間、とくに北川は何をしていたのか?
「デスク、北川は食事中の被害者の背後からいきなりスタンガンをぶっ放ったそうです」
「初犯らしからぬ大胆さだな」
「車に運び出す際は、店の制服を着せ、帽子をかぶせて」
「用心深いな。わずかな距離だろ」
「それから北川は大阪市内の99円ショップで焼酎を購入しています。それが6時頃、店の記録に残っています」
「焼酎?」
「被害者に飲ませたんですよ」
「そうか、睡眠薬の効き目を強めるためだな。こりゃ薬のことを熟知してる奴が入れ知恵してるな」
「携帯はGPS機能を心配して、バラバラにして複数の場所に捨てるよう三橋に指示しています。それから高速を降りたあたりで被害者にアイマスクをさせて」
「そこまで来てからアイマスクをさせたのか?」
「被害者によるとガレージには4人くらいの男がいたと。やくざ風の男もいたと」
「それだよ、2人を4人に間違えるなんて考えられん」
「睡眠薬で幻覚を起こすことはあり得ませんか?」
「俺の知ってる限りはないな。それに検察の作文じゃ、被害者はわずかな隙をついて自分で助けを求めたんだろ? 十分に覚醒してるじゃねえか」


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