さよならのラララ-4
もえこは心臓の病気なのだそうだ。子どものころから、そりゃもう小さい頃からずっとお付き合いしてきた病気。もはや親友のようなものだね、とこの間したり顔で頷いていた。友達は選べ、と俺は冗談みたいにいったけれど、選べるようなもんじゃないことくらいわかってる。
母親が入院した病院で出会ったこいつは、まだ年端もいかないながらにそこの入院患者達の中で「入院のベテラン」といわれるような存在だった。それだけ長くここにて、それだけ多く入退院を繰り返している。最初その話を聞いて、可哀想だ、と無意識に思った。そのあともえことちゃんと知り合って、色んなことを話して、俺はそう思ったことをこいつに謝った。可哀想とかそんなんじゃないんだって今は思う。病気で苦しんでるわけじゃない俺に無責任なことは何も言えないし、みんながみんなそう思っているわけはないけれど、少なくとももえこにとって自分が病気であるということは、足が遅いとか、絵がうまいとか下手とか、そういうものと大して変わらないのだと思う。克服できる人もいればできない人もいる。努力の大小にかかわらず、どうしようもない人も存在する。
「だけどそれはニンゲンとして当然のことなんだよ。ただ「できる人が多いこと」をできない人が、可哀想に見えちゃうだけ。でもそうやって可哀想だなんて思うのは、できる人のエゴだよ。自分だってできないことは必ずあるんだから」
僻みじゃなくて妬みじゃなくて、ただまっすぐにそう言えるもえこがかっこいいと思う。俺なんかよりも遙かに。
「でも、謝ってくれてありがとう」
そう言ってはにかんで笑って、俺の胸に頭をもたれかけたあいつの重みを、俺は忘れたくないと思うのに。
ひどく静かな中庭にひどくいやらしい音が響く。断続的に漏れる意味のない声と、それに重なる粘着質な水音、それだけ。ただただ俺の耳を揺らすその淫猥なアンサンブル。それに加えて俺を興奮させるのは、頬を染めて、物欲しそうに唇を開いて、欲情に揺れる瞳を濡らして、それでいて純情そうに恥じらう目の前の少女の姿だ。仰向けにベンチに寝そべり、両足を高く掲げさせられた卑猥なポーズ。日常でとる必要のない動物的な体勢は、ただただ俺を迎え入れるためのもの。そうさせていることへの優越感……のような。支配していることの満足感、みたいな。
もえこのお気に入りのスカートは皺だらけだ。とっくに取り払った下着はもえこの足先にひっかかっている。胸を包むはずのブラジャーはずれてしまっているし、俺の上着はもえこの下敷きになってくしゃくしゃだ。こんなん全部、意味ない。必要ない。そう、この世はいらないもので溢れかえってる。例えば今、どうしようもなくもえこを抱きしめたい俺とか、もえこにキスしたいと思うこととか。そんなことしなくてもセックスは滞りなくできるだろうけど、だけど今、もえこにキスしたい。ぎゅうって抱きしめたい。
なんでだろう、必要ないものほど、俺を幸せにする。
口付けたもえこの足の間は、どろどろでぬるぬるで色々ひどい。それがなんかもう、なんかもう、嬉しくて、腹立たしくて、愉快で愉快で仕方ない。
無意識に笑みを浮かべていたらしい俺に気付いて、もえこが不満げな声を上げた。