鎮魂（その３）-8
私は犯した罪のために与えられるどんな痛みにも耐えられる。でも私は罪を背負うことに快楽を
感じ始めたときに、私はその心を憐れみ、掻きむしるほどに自分の体を苛まなければならないの
だ。
そして私は、体に受ける苦痛をしだいに心の快感として受け入れ始めた。
いや…私は、あの人が罪を背負って地獄の門をくぐることをずっと願い続けていたのだ。その願
いそのものが私の心の快楽になったのだ。
私の手元にある色褪せたビデオテープ…縄で縛り上げられた孕んだ修道女…その陰部をナイフで
なぞり、鞭を振るうあの人の映像が無声映画のように映っていた。
三十数年前…その孕んだ修道女は密かに女の子を産むと同時に死んだ…。その女の子の父親は、
あの人だった。
そして、その女の子は私だった…
あのナイフの柄に刻まれたイニシャルと名前…私は、あの人が死んだあと、その名前の女性が誰
であるか…初めて気がついたのだった…。
あの人にあのナイフを与えたのは、母自身だったのだ…
ホテルから見える雨に包まれた地中海が、死んだようにひっそりと静寂に包まれていた。鉛色の
雨に煙る空虚な風景、そしてその沈黙の闇の先にあの僧院が見えるような気がした。
突然、私の背筋を戦慄のような悪寒が走る。渦を巻くような突風が吹いてくる。そして大粒の雨
が暗闇に包まれた海を豪雨のように包み、激しい稲妻が光り、雷鳴が地響きのように鳴り響いた。
…ある女性ルポライターの週刊誌の記事…
Ｔ大学准教授Ｎ**女史の死について…
一年前に、Ｎ**女史が南欧のある小さな村の近くの森の中で、焼身自殺をしたことを知る人は少
ない。この出来事は地元の新聞では小さく報じられたが、Ｎ**女史の勤務する大学では女史の
プライバシーに関わることだということで、その自殺の原因についてはコメントはしていない。
そしてこの出来事の一ヶ月前に、文化栄誉賞の受賞者である音楽家Ｓ氏が自宅マンションで自殺
した報道を覚えている人は多いと思う。
このＳ氏の死因については明らかにされていないが、実は局部を切断されたショック死または大
量出血によるものだということが関係者の証言でわかったのだ。この猟奇性を持った事件につい
て、警察は自殺と発表しているが、事実として氏の死亡直後、現場から逃走した女性がＮ**女史
に似ていることなどから、Ｎ**女史の行方について警察が極秘に捜索中であったこともわかって
いる。