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鎮魂
【SM 官能小説】

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鎮魂(その3)-9

実は、N**女史とS氏のふたりの交際については、以前一部の週刊誌で小さく報じられたことが
あった。
美貌と才媛に恵まれた三十二歳のN**女史と六十五歳S氏のロマンスがひと頃話題になったこと
があったが、氏は当時あくまで親しい友人であることを述べていた。しかし、しばしば二人がホ
テルで一緒だったことが目撃されていることから、肉体的な交情があったことは確かである。


そしてふたりの死が、恋愛関係のもつれであることも憶測されている。


また、ふたりの交情の場所が、あるときはSMホテルであったことを私はある関係者の証言で知
ることとなった。ふたりがどういう性的趣向を持っていたかは、読者はおわかりのことかと思う。
こういった性的趣向を好む著名人がいることは別に珍しいことではない。


私が驚いたのは、このふたりの関係にはある事実が隠されていたことだ。驚くべきことに、N**
女史はS氏の実の娘であったことがN**女史の残した手記に記されていた。
そしてN**女史が以前からその事実を知りながら、父親であるS氏と交情を続けていたことであ
る。しかしS氏自身が、彼女が実の娘であることを知っていたのかはわからない。


近親相姦を異常な性欲と捉えるかどうかはわからない。近親相姦をもって人間の性欲を不可解と
言っているのではない。実は、N**女史は敬虔な宗教家でもあったということである。あの美貌
の女史の顔の中には、深い敬虔さと同時に肉体の快楽を求め続けたもうひとりの女史の顔があっ
たということだ。


心の快楽があってこそ、肉体の真の快楽が得られるということ…心の快楽とは、女史にとって、
嫉妬であり、憎悪であり、虚栄であり、欺瞞であり、裏切りなのだ…あの美しい敬虔な女史の顔
が背徳的な自慰行為によって歪む心の罪に与えられる鞭の痛みこそ、女史が望んでいた肉体の
快楽そのものだったのかもしれない…


彼女が残した遺品の中にあった唯一の愛読書…
今は、その南欧の詩人による本だけが、彼女のすべてを物語っているとしか言えない…。


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