クリスマスの幻惑 -2
妄想の中にしかいない彼に哀願しながら詩織は通販で買ったバイブで自分をイカせた。心は空っぽのまま快感は全身を貫き高みまで駆け上り、2回目3回目と立て続けに襲い、詩織はそれを貪った。そのまま何度もバイブで絶頂まで上り詰め、そのままむきだしの全裸で果てた。
その間、窓のカーテンが開けっ放しなのに気付いたのは翌日の昼過ぎだった。
詩織は身体の中と入り口がヒリヒリする痛みを感じで目を覚ました。カーテンが開けっ放しという失態は恐ろしかった。窓には詩織の汗と口紅と淫らな液の跡がかすかに残っているだけだったが、詩織の血の気を引かせるにはそれだけで十分だった。部屋は5階だが、辺りには8階建てや10階建てのマンションが立ち並んでいるのだから見られなかったはずは無い。事実、詩織自身も自分の部屋から、狂態を演じてしまったその部屋から隣のマンションの階下の部屋を何度となく眺めていたのだから。幸い、その夜のことについて何か言って来る人はいなかったし冷やかしの眼差しで見られることも無かった。もちろん差出人不明の手紙も苦情も無かった。だが詩織は前を向いて歩く事が苦痛だった。詩織は新しいマンションを探し始めた。
だから今夜は、今夜だけはグラス2杯以上のアルコールの世話になる訳にはいかない。寂しさに身を任せると文字通りろくな事にはならないのだ。食事をとり、シャワーを浴びるとさっさとベッドに入った。こんな日にはさっさと眠ってしまうに限る、そう胸のうちで呟いた。
「誰?」
詩織はふと目を覚ました。ベッドがゆっくり軋みながら沈み込むのを感じ、その感じが詩織を夢から引き剥がし目を覚まさせた。詩織が目を開けたと同時に全身がガキッと固まり、体の自由が奪われた。生まれてはじめての金縛りに、今まで感じた事の無い恐怖が全身を襲った。詩織は心の中で冷静にと自分に言い聞かせた。金縛りは怖いけれど俗に言う心霊体験ではなく科学で実証されている体験だ。睡眠中に意識だけが目覚め、身体が眠っている状態。それが金縛りだという事を知ったのは随分昔の事だった。誰かに足首を触られたように感じたが、それもまた夢の仕業。しばらくすれば身体も意識の後を追って起きてくるだろう。
だが身体は一向に目覚めようとはしなかった。再びベッドが軋み、忍びやかに何かが迫ってくるのを詩織は感じて目を開けた。ベッドの上には予想通り自分一人だけしかいなかった。「夢でもぞっとするわね」そう心の中で呟いた時に、それが詩織の足首を掴んだ。詩織は悲鳴をあげたが生憎、声帯は身体と一緒に眠っていた。
男の手だ。直感でそう思った。恐ろしく力が強く高温を発していた。経験はなくとも、その手は詩織が空想の中で何度も思い描いた厚くごつごつした感触だった。爪はきれいに刈ってあるのね。ふとそんな感想が飛び出した。男の手は両手で詩織の足首を掴み、足首が熱くなった。男は足首をつかんだ手をゆるめると足首からふくらはぎへ手のひらを滑らせた。ふくらはぎから膝へ、そして滑らかな太ももへと熱を発した男の手が伸びる頃には詩織の下腹部がゆっくりと疼きだしていた。そのあまりにもリアルな感触にぞっとした。