エース-6
「はい。」
「落ち着いたかしら?」
麗華の優しい声が聞こえてきた。
「はい。大丈夫です。」
「さっきは嬉しかったわ。
でも、あんな事を言って後悔していないかしら?」
「いいえ。私はお蝶夫人を今でも愛しています。」
ひろみは、優子を見つめたまま、はっきりと言った。
「そう・・・・・・・」
「優子さんの力になれると思うの。
今晩、二人で家へいらっしゃい。」
ひろみは戸惑った。麗華なら力になれるだろう。しかし・・・・・・
「分かりました。優子の都合がつかなければ連絡します。」
「そう。それでは7時に車を迎えに行かせるわ。」
優子がひろみに駆け寄る。顔に不安の色が広がっている。
「どうしたの?」
「今晩、二人でいらっしゃいって。」
「龍崎さんが?」
「優子の力になりたいって。」
「・・・・・・」
「お蝶夫人は、人を騙したりしないわ。
本当に、優子の力になってくれると思う。」
ひろみはそう言いながらも不安を捨て切れなかった。
麗華は変わってしまった。優雅で華やかな振る舞いは変わらないが、常に生贄を欲している。優子が不安に思うのも無理はなかった。
「ひろみと龍崎さんに何があったの?」
優子が、まっすぐにひろみを見つめる。
長い沈黙の後、ひろみは静かに話しはじめた。
「愛していたわ。
とても優しい人だった。
皆が憧れていたのよ。
優雅で美しい、誰もが自然にお蝶夫人と呼んだわ。
あのことがあるまで、本当に優しかった。
お蝶夫人のことを悪く言う人なんていなかったのよ。
お蝶夫人もね、肥大症を患ったの。
お蝶夫人はね発症しても隠すことなく、毅然として振舞っていたわ。
そんなお蝶夫人を辱めた人たちがいるの。
全てを兼ね備えたお蝶夫人をよく思わない人たちがいたのよ。
それもお蝶夫人を慕う私たちの前で、あんな機械を使って無理やり・・・・・
その夜、お蝶夫人は自らのクリ○リスをハサミで切り取ったの・・・・・・」
「いや!」
優子が顔を両手で覆う。