ネコ系女 #3-5
「あのね、俺…」
意を決したようにタマは私を真っ直ぐに見つめた。
一瞬。
不覚にも一瞬だけ、その眼差しにトクンと心が波打ってしまった。私ともあろうものが…。
タマが口を開く。
「俺のジャケット返して欲しい!」
「え?」
「あとお食事会のお金!」
え?お金?え?
頭がついていってない。
「何?何の話?」
「だから、昨日のジャケット!貸したでしょ?お金はさ、会計の時ケーキ屋さんいなかったから、俺が立て替えてあんだ。三千円でいいよ!」
いいよってあんた。そういうことじゃなくて…!これが『言わなきゃいけないこと』!?
「正直、お金の話ってしづらいじゃん。物返せって自分から言うのもあれじゃん。でも、やっぱここは言わなきゃなって!ナアナアはダメだなって!うん」
タマは一人で話して一人で納得している。
私の少し離れたところでは姫代まで「確かに…ナアナアは良くない」と真剣な顔で頷いている。
ダメだ。
私にはタマが分からない。言動が謎。
友達二人は奢ってもらってるのに、私だけ払わなきゃいけないなんて。こんな屈辱は初めてだ。
ジャケットだって確かに部屋にあっても困るものだけど。そもそもいらないって言ったのに無理矢理着せたのは誰よ。
違う違う。
そういう問題じゃない。
タマといると私が私じゃなくなる気がする。
もう関わりたくない。
「分かった。明日持ってくるからまた来なさいよ」
これで全てがチャラだ。
「明日は無理だよ。仕事だもん」
あっけらかんとして、笑いながらタマは首を横に振った。
チャラが遠退いた。
「ケーキ屋さん空いてる日ある?」
空いてる日はある。
だが、タマのための空いてる日は残念ながら無い。
「無い」
「あるある!ありますよっ」
私と姫代の声が重なったが、若干姫代の方が大きかった。
私は驚いて姫代を見る。
「本当!?」
タマは姫代の方に体を向けて、目を輝かせた。
私とタマを交互に見ながら姫代は続ける。
「ウチは毎週水曜日が定休日なんです!なんで、水曜日なら朝希は空いてますよ」
なぜその情報を提供してしまうの、あんたは。
じっとりとした視線を送る私に向かって、姫代は得意気にニンマリとした。