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DEAR PYCHOPATH
【サイコ その他小説】

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DEAR PSYCHOPATH−10−-2

 「ベッキー、俺たちは先を急ぐんだ。こんな所で立ち止まっているな」
 止めたところで、言うことを聞く子だとははなから思っちゃいない。ただ言ってみただけだ。案の定彼女は、僕の声など風にも聞こえないかのように、喜々として花壇へ飛び込み、土と草花にまみれだした。
 「まったく」
 ため息をつき草の上は腰を下ろす。昨夜雨が降ったからだろうか、触れた所から、じわりと冷たさを感じる。
 「しかたのない子だ」
 再び僕はため息をついた。僕がこの夢での、自分が置かれている立場のようなものについて気がついたのはつい最近のことだ。今まで夢だと思っていたこの世界を、流やケイコさんは、それは夢ではなく、僕の前世、つまりヘンリーの記憶だと教えてくれた。それならここは、客観的に判断すると『僕の世界』ではないということになる。つまりここでの僕は、存在も許されない者。言い方を変えれば招かざる客なのだ。それなのに僕は、この世界に確かに存在している。ヘンリーの記憶という世界の中で、ものを見て、何かを考えて・・・。そう思った時、ふと頭に浮かんだのだ。
 『僕は一体何の役でこの世界に生きているのだろう』
 それが、僕の置かれている立場を考え始めたきっかけだった。第一に、夢を見る度に景色が少しずつ違っていることから、草花や建物などの静止物ではなさそうだし、ましてベッキーであるはずもない。一瞬ヘンリー自身ではとも思ったが、僕が彼だったら人殺しなんてするはずがないという考えが瞬く間にそれを遮った。しかし真実はそうやって自問自答を繰り返すうちに、徐々にその姿をあらわにし、何度目かには、光明の下にあった。そう、僕は一つの個々たる生命体ではなく、寄生虫のように他の『何か』と共存する者だったのだ。そしてその『何か』というのは言うまでもなく、僕の前世、ヘンリーというわけだ。もっと詳しく説明すると、僕という存在は彼の両目と、脳、そしてわずかな意識だけで、けれどそれだって全てを征服しているのではく、ほんの表面上。彼の見ているものが僕にも見え、彼の感覚や考えが僕に伝達するにすぎなかったのだ。
 「ねぇ、ヘンリー」
 泥だらけになりながら、ベッキーは言った。
 「何だ」
 「おいでよ。お花、いい匂いだよ」
 彼女ははにかむように笑った。この娘だって、周りにまともな大人がいれば、純粋な、本当に芯からかわいらしい少女になっていたことだろう。幼い彼女に責任はない。悪いのは、人殺しが当たり前の行為だと錯覚させたヘンリーの方だ。
 「はやくはーやーくぅ」
 柔らかい地面にうつ伏せになりながら足をばたつかせる彼女を見ても、 「そんなことはどうでもいい。遊びに飽きたのならさっさと立て。日が暮れるぞ」
 にべもなく言って、僕は立ちあがった。
 「そら、早く来い」
 ベッキーがふくれる。
 「けちぃ。少しくらい遊ぼうよ」
 やれやれというふうに僕はかぶりを振った。
 「駄目だ。早く来い」
 彼女は口を尖らせ、渋々と立ちあがった。
 パンパンと音を立てて、体中についた土をはらう。
 「ヘンリーの、けちぃ」


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