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DEAR PYCHOPATH
【サイコ その他小説】

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DEAR PSYCHOPATH−11−-5

 「情けない姿だ」
 飛び込んで来たその声に、僕は息を飲んだ。今のは・・・今のは、エド・ゲインの声じゃない。確かに聞き覚えのある声ではあったが、彼のものではなかった。僕はゆっくりと顔をあげ、驚愕した。
 「何故、お前が」
 無意識にこぼれた一言だった。僕の瞳に映った彼は、最初にエド・ゲインの餌食になったとばかり思われていた少年、高橋隆の姿だった。しかし、僕の知っている彼は、いつももうろうとして、流やケイコさんのような自己をまるで持っていないかのようだった。それがどうだろう。ここにいる隆の表情は、自信に満ち溢れ、そして何かを追い求めるような、強い信念みたいなものを瞳の奥に秘めている。僕は舌を打った。彼が僕を打ったのだと、拳銃をみて初めて気づいたのだ。
 「まさか・・・お前が、エド・ゲインの仲間だったとはな」
 それを聞いた隆は、銃口を僕に向けたまま、まだ大人になりきっていたに声で甲高く笑い声をあげた。
 「お前、ククッ、まだ分かっていないようだな」
 「何だと?」
 「この状況を考えてみろよ」
 「?」
 「お前、さっき言っていたじゃないか。この部屋から逃げ出す方法があるはずだってな。そのとおりだぜ。お前の言うとおり、この部屋からはエド・ゲインだけが脱出することが出来るんだ」
 ハッとして、椅子の前に立つ彼へ視線を移す。
 「まさか」
 「そうさ」
 隆は愉悦の表情で、身動きの取れない僕の額へ冷たい銃口を重ねた。
 「お前が、エド・ゲイン?」
 "しまった"とか"ちくしょう"とか、悔しがる言葉さえ浮かんではこなかった。ただ一言"僕らの負けだ"という文字が無造作に足元に転がっていた。結局、勝負は始めからついていたというわけだ。
 「流が死んだのは俺にとって好都合だった」
 彼は笑いをかみ殺しながら言った。
 「あいつに生きていられると、いつかはばれていただろうからな。生き残ったのがお前でよかったよ、あいつ、どういうつもりでお前を助けたのかは分からなかったが。最後の機会だ。ここで種明かしもしておこうか?」
 よほど勝負を確信したことを、もとい、完璧に僕らをはめられたのが嬉しいのだろう。
 「あそこに立っている奴は、俺がさらってきたんだ。街でな。奴の本当の名は、斎藤直也といって、たたのボンクラ予備校生だ。毎日疲れた目をしてたから、ほんの少し刺激を与えてやった」
 「何を、したんだ」
 「催眠術さ」
 「え?」
 「ああいう単純な人間ほどかかりやすいものだ。俺の完全な人形になるまで、何度も繰り返しかけてやったのよ」
 離れていた彼視線が再び僕に戻った。全てを話終えたのだろう。僕は静かにまつ毛を伏せた。ついに僕は死ぬのだ、という諦めの念が、不思議な程流暢に頭の中で響いている。暗闇の中で、彼がゆっくりと引き金を引く。この期に及んで、まだ僕に恐怖を与えようとしているのだ。そして彼が、「死ね」と吐き捨てたと同時に、僕は全身を硬直させた。口をふさがれたままの鈴菜が発した、泣き声のような悲鳴を、反響する銃声の音がかき消していく。痛みはなかった。どこを撃たれたかも分からない程だ。僕の体は、スローモーションで反り返り、床へと転がった。おかしい・・・と、ふと思った。痛みがなかったのは別にいいのだが、衝撃もなかったことが何とも妙だ。それに、感覚もしっかりしている。それとも死後もこんなふうに五感を保っていられるのだろか。僕は奇妙な疑問を抱きながら、恐る恐る瞼を持ちあげた。仰向けのため、世界が逆さまだ。上には床、そしてそこには見覚えのある足が見える。足元からゆっくりと下の方へ視線を移していく。ボロボロに破れたジーンズから、黒いワイシャツ、見え隠れする包帯、肩にかかる長い髪の毛、そして・・・包帯を巻いた、だけど、よく知っている綺麗な顔。
 「なんだ。やっぱり天国か」
 と一息ついて、
 「違う!」
 もう一度目を見開いた。
 これは夢でも、まして天国でもない。その証拠に僕の両耳ははっきりと鈴菜の泣き声が聞こえてきている。僕は慌てて上体を起こし、自分の足を見た。ある。
やっぱりだ。やっぱり僕は死んじゃいなかった。
 「遅くなって、しまいましたね」
 背中からの懐かしい声に顔をあげ、わずかな沈黙をおいた後、ゆるゆると振り向く。
 「大遅刻だ、流」


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