冷たい指・女教師小泉怜香 @-5
『見られた―――よりによってうちの生徒に―――』
私は余りにも無防備だった自分の軽率さを呪った。
慌てて乱れた衣服を整えたが、露出していた下半身は完全に見られてしまっただろう。
「―――俺の姉貴に何やってんの?手ぇ離せよ」
『――あ、姉貴?』
この青年がとっさに何故そんな嘘をつくのか、私の頭は急な展開についていくことができない。
青年は私ではなく、背後の痴漢男のほうを真っ直ぐ睨んでいる。
さほど身長は高くないが、ほんの少し斜視のかかったその鋭い眼差しには不思議な凄みがあった。
「―――警察は勘弁してやっから二度と近寄んな」
青年に睨まれ、痴漢男は慌てて身繕いをして車両の奥へ逃げて行った。
その時初めて、私は痴漢男の顔を見た。いかにも中間管理職風の平凡な中年男だった。
私はあんな冴えない男に一ヶ月もの間身体を好き放題まさぐらせ、セックスまでしようとしていたの……?
自分の肉体の浅ましさに胸がムカつき、吐き気が込み上げる。
夢から突然覚めたようにぼんやりしていると、目の前の青年にパッと腕を掴まれた。
「センセ。駅、着いたよ」
気がつけば学校のある駅に着いていた。
引っ張られるようにホームにおり立ち、改めて青年と向かい合った。
ずいぶん大人びて見えるが、名札の赤いラインは彼が二年生であることを示している。
『……柳沢亮……たしか…2年……D組だっけ……』
あまり印象が強い生徒ではなかったが、顔と名前は記憶にあった。