冷たい指・女教師小泉怜香 @-6
「……な…なんで……姉貴だなんて言ったの?」
とりあえず素朴な疑問が口をついて出た。
「だって、教師ってバレたら色々厄介でしょ?……それとも……ひょっとして止めないほうがよかった?」
亮が意地の悪い笑みを浮かべながらからかうように言う。
この子……私が痴漢に感じていたことに気付いていたの……?
そう思った途端、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
「―――あっは!冗談だって」
彼はおかしそうにクスリと笑うと、私にくるりと背を向け改札に向かってスタスタと早足で歩き出した。
「あ……待って」
私は慌てて亮の後を追った。通勤ラッシュの人混みに流されて、彼との距離がどんどん離されていく。
混雑する改札をもがくように抜け、急いで制服の後ろ姿を探したが駅を出た時には既に彼の姿は見当たらなかった。
――――――――――――
翌日――――
私は少し落ち着かない気持ちで電車に揺られていた。
昨日のことを根に持ったあの男に復讐されるのではないか――相手を刺激したことで今まで以上に酷いことをされたらどうしよう……。
そんな恐怖感が私の中から消えなかった。
もしそうなったら、あの子がまた助けてくれるのだろうか……。
辺りをぐるりと見回したが、亮の姿は今のところ見当たらない。
そうこうしているうちに、電車はY駅に到着した。
いつも「あの男」が乗り込んでくる魔の駅―――。
大丈夫だとは思いながらも、心臓がドクンドクンと高鳴る。
ううん……大丈夫。
もうあの男はこない―――。
私は何度も自分に言い聞かせた。
ついに電車が出発した。
いつもならあの男の手が下半身を這い回り始めるはずだが、やはり今日はその気配がない。
『……よかった』
私は痴漢の魔の手から解放されたのだ。
全身の緊張が解け、ため息がもれる。