桜が咲く前-1
鈴(りん)が矮助(あいすけ)の家を出た時は夜だったが、考え事をしているうちに朝になり、気付けば、人で賑わう街中を歩いていた。
自分を好きだと言ってくれた矮助の気持ちにこたえたい。
矮助に支えられるだけでなく、矮助を支えられるよう強くなりたい。
矮助の隣を笑って歩けるようになりたい。
そんなことを考えつつ歩いていると
『お助け下さい、お侍様!!』
可愛らしい女の子が鈴の胸に飛び込んできた。
『変な人達に追われ…』
そう言って顔を上げた女の子は
『え゛…?』
と言い、顔を歪ませた。
女の子の顔は鈴にも見覚えがあった。
夕べ祭りであった、あの女の子(小春)だ。
『お前…』
昨日の、そう続けようとしたとき
『待ちやがれ!!』
小春が駆けてきた方から男達が走ってきた。
しかもそれは、夕べ鈴を襲おうとした男達。
『貴様ら…』
鈴が刀に手をかけると
『あっ姉さんっ!
そいつです!
そいつが夕べ俺たちを襲ったやつです!!』
男達は皆震えあがり、くものこを散らすように逃げ出した。
『待ちな!』
小春が一言かけると男達はぴたっと止まった。
(え…?)
鈴が呆気にとられていると、いきなり胸ぐらを捕まれ
『ちょっと、付き合ってもらうよ』
さっきまでの可愛らしい女の子はどこへやら…
怖い小春に、鈴は連れて行かれてしまった──
着いた先は団子屋。
鈴と小春と男達とで、団子を食べている。
『…ってことは…あんたたちが悪いんじゃないか!!』
男達を一喝する小春。
ひぃっと半泣きになりながら身を縮める男達。
『なぁにが、いきなり知らない男に襲われただ!
このアタシに嘘つくなんて!
あまつさえ、遊ぶ金欲しさに人を騙すなんて、なんてことしてるんだ!
恥を知れ、恥を!』
すみません、すみません、すみません…
っと何度も謝る男達。
謝る相手はアタシじゃないだろうが!!
と怒り、殴る蹴るを繰り返す小春。
事態についていけない鈴。
何も言えずに、ビビる周りの人。
辺りは一時、不穏な空気に包まれた─―