桜が咲く前-3
『じゃっじゃあ、もしかして、矮助とも、そうやって…』
恐る恐る尋ねる鈴。
『そうよ』
けろりと答える小春。
小春は続ける。
『矮助様だけじゃなくて、今まで付き合った人、だいたいそうよ』
『お前…』
鈴は言葉を失った。
護衛、とは言え、護衛以外の仕事をすることも、たまにはある。
鈴もその腕を買われ、主にとって邪魔な存在の者の抹殺を頼まれたこともあった。
が、しかし、ナンパに使われるとは聞いたことがない…
『使えるものは、何でも使わないとね』
小春は屈託なく笑う。
鈴は軽くため息をついた。
鈴はふと思った。
(コイツは、使えるものは何でも使うと言う。
なら、使わないときは?
アイツと同じ、雇う側なら、何かわかるだろうか)
鈴はずっと引っかかっていたことを聞いてみた。
『なぁ…』
『何?』
小春は団子を一つ食べながら聞く。
『護衛を連れて出かけないのは、どういう時だ?』
『え?』
『普段出かけるときは、必ず一人は護衛を連れて出るだろう?
なら、連れて出かけないのはどういう時だ?』
『そぅねぇ…』
小春は団子を一つゆっくり食べ
『デートのときと、後は危険なとき、かな』
『危険なとき?』
『そ』
小春はお茶をすする。
『何故だ!?
危険な時ほど、連れて出るだろう!?』
小春はお茶を両手に持ち、話し出す。
『あのね、友達が自分の護衛の一人を好きになったの。
その子が言ってたんだけど、いざって時には、護衛は自分の命をかけて主人を守るでしょう?
自分を守るために、死んで欲しくない。
だから、危険なときほど一緒に出かけないんだ、って…
それ聞いて、私もなるほどなって…
私、アイツらとはもう長く一緒にいてね、誰かが死んだら辛いもの…』
小春はうつ向き、ふと鈴を見た。
『やだっ!
ちょっと、どうしたのよ!?』
鈴の目から涙が溢れた。
(コイツが言っているようなことをアイツも思っていたなら…
アイツは、俺を危険な目にあわせないために、連れて出なかったのか…?
俺を想って…?)
鈴は顔を覆い、泣き出した。