ネコ系女 #2-4
「…ブッシュ・ド・ノエルみたい」
「え?何何?」
つい口に出てしまった。
「何?ノエル?ノエルって何かカッコいいっ!」
タマは嬉しそうに笑った。
「さすがケーキ屋さんだなぁ。ノエル、うん、気に入った!帰ったらももちゃんにも教えてあげよう」
ももちゃん?ああ、そういえばタマには彼女がいたんだっけ。
昼間、確かももちゃんにケーキを買っていた。
「ももちゃんはケーキ美味しいって言ってた?」
ちょっと皮肉を言ったつもりだった。彼女がいるのにこんなところにいていいのか。
するとタマはしゅんと目を伏せ、先程までの笑顔が消えた。
「それが…ももちゃんケーキ嫌いだったみたいで」
これは聞いちゃいけないことだったらしい。あーあ、カワイソ。
「残念だったね」
一応、慰めの言葉を掛けてやる。タマはうんと頷いた後、弾かれたように顔を上げた。何事かと思ったら
「あ、でもケーキ屋さんとこのケーキはすっごい美味しかった!だからケーキ屋さんは全然気にしないで!!俺が全部食べるから」
私の心配をしてきた。
自分がへこんでいるときに、何で他人のことを気に掛けられるのだろうか。
少し不思議だった。
「私は別にいいの。ていうかあんた、ももちゃんほっといてこんなとこに来てていいの?」
するとタマはきょとんとした顔になった。笑ってるイメージしかなかったので分からなかったけど、真顔になると二重だけどすっとした切れ長の瞳で少しだけかっこよく見えた。が、またすぐにへにゃっと綻ぶ。
「ももちゃんのことまで考えてくれるなんて、ケーキ屋さんやっぱすっげいい人〜。」
何でそうなるの?
そう言おうとしたが寸でのところで飲み込んだ。
これ以上話すのも面倒だし、何よりこいつは疲れる。
タマには私の話がずれて伝わっている。いちいち訂正するのも面倒臭い。
【ネコ系女は面倒くさがり】
タマも、ももちゃんも、私には関係無い。
だけどタマはお構い無しに喋り続けた。
「ももちゃんはさ、すっごい物分かりが良くていいコなんだ。というか、結構一人でも良いっていうか…ほっといても問題無いというか…」
へーそう、と私はまた話を聞き流した。
気付くと向かい側の顎髭がいなくなっていて、別の女の子と楽しそうに話している。枝毛はもう一人の女の子と。
知らず知らずの内に、私はタマとペアにされてしまったらしい。
なんてことだ…私としたことが。
彼女のいる男とペアにされても嬉しくない。いつもならいようがいまいが関係無かった。みんな最終的には私に来てくれた。
でも今回は違う。
相手はタマだもん。
タマはいらない。
ああ、つまらない。
今回は『ハズレ』だった。