「午後の人妻 童貞嫐りB」-7
「亨クーン。
待ってーっ……ちょっと待ってーっ」
走りながら亨の後ろ姿によびかけていた。
これも意思に関係なく、自然に声になって出ていた。
よびかけられた亨が立ちどまり、こちらを振り返った。
彼のほうもよびかけられるのを待っていたような振り返り方である。
由子は小走りに行って、
亨の前に立った。
「ね。
こんなことを女の私から言うのは変かもしれないけど……
もし、亨クンさえよかったら、一度私と……
その……
私とデートを……
してくれない?」
「いいスよ」
由子が言い淀みながらやっとの思いで聞くと、
亨から躊躇(ちゅうちょ)のない快諾の返事が返ってきた。
彼女には拍子抜けするくらいあっさりしたものである。
「い、いいの?
私は……こんなオバさんだけど、
それでもいいの?」
「愛田さんのことは大人の色気のある人だなと……ずっとそう思って見ていました。
オレのほうこそ、デートに誘いたいと思っていたくらいス」
「デ、デートといっても……
ただ、お茶して……
公園を散歩してという、
純愛映画のような……
デートとはちがうのよ?」
「分かっています」
少年がこちらを見ながらきっぱりと言った。
言ってから、その面を伏せ、それが含羞(がんしゅう)の色に染まっていく。
由子のほうも顔面にポッとした朱が差し、それが首筋のほうまで広がっていくのだった。
ふたりのあいだに濃密な気配が漂った。
それからふたりはデートする日時を、翌々日の金曜日の午後3時に決めていた。
その日は亨たちが短縮授業で学校が早く終わること、
金曜日はふたりともコンビニの仕事が入っていないことから決まった。
「金曜日の午後3時に、どこに行けばいいスか?」
「そうね……W橋の北詰めのところでどう?
私、紫色の車で行くから」
W橋の北詰めというのは、亨が通っている学校の正門から、駅と反対の方向に500メートルほども行ったところにある。
そこなら車を停めるのに便利で、人目にもつきにくい。
それにふたりが落ち合ってからの行動にも都合がよかった。