偽り-6
「高校になると、広親の文才は花開きました。文の瑞々しさや独特な表現など、私が読んでも差は歴然としていた。
その才能が出版社の目にとまり、広親は大学在学中に作家デビューした。
私は焦りました。同じ双子で、何故、文才にこれほどの差が生まれるのかと。私は、少しでも広親に追いつきたいと様々な勉強をしました。
実家を継いだ後も、細々と書き続けました。だが、広親との距離は縮まるばかりか広がる一方だった…」
「それが殺意なんですか?」
「いくら私でも、そんなことで殺したりしませんよ」
ひと息ついた宣親の顔色が変わった。──核心に近づき、見つめる目に鋭さが宿る。
「事件の数日前、私は広親に会いに行きました。──コネでもなんでも良い、作家になりたい─と。だが、だが!アイツは──」
──こんな駄文じゃ無理だ。いい加減に諦めろよ。
──諦め切れるなら苦労はしない。この気持ち、おまえなら分かるだろう。
──じゃあ、こうしよう。おまえは、オレの影武者になるんだ。
──影武者…だと?
──そうさ。サイン会など人前に出る仕事はおまえがこなして、オレは執筆に専念する。
そうだ!時折、エッセイくらいなら書かせてやるぞ。
「耐えきれない屈辱だった。その時に殺意が芽生えたんです」
宣親は身体を震わせ唇を固く結んだ。
「広親氏は、あなたに作家を諦めさせ、現実を見させようと思ったのかもしれませんねえ」
「エッ……?」
俯き加減だった宣親が顔を上げて目を見開いた。
永峰が言葉を続ける。
「広親氏は憂いていたそうですよ。あなたが、家業を継いでいながら身が入っていないと。
──いつまでも夢を追っているわけにはいかない──彼なりの言い回しで、そう伝えたかったのかもしれませんね…」
宣親は再び俯き目を伏せた。永峰には、その姿が急にしぼんでいくように見えた。
──しかし、何故…?
今なお疑問が残る。
「……永峰さん」
「なんです?」
「あなたは──逮捕の決め手はDNAだった─と仰いましたが」
「ええ。確かに」
「実家のモノは分かるのですが、アパートのモノはどうやって?あなたは今朝、初めて私と会いましたよね」
──知的好奇心か…。
永峰はクスリと笑った。
「こういうのはあまり教えられないのですがね。まあ、今回は特別に…」
永峰は、内ポケットから1枚の写真を取り出し宣親の前に置いた。
「この方、ご存知ですよね?」
「…理名…?」
「そう。あなたの…ああ、広親氏の恋人、野川理名さん。もっとも、広親氏はセックスだけの関係だと思っていたようですが…」
「彼女がどうかしたのですか?」
「あなた。3日前に彼女と何をしました?」
「3日前?……!」
宣親は永峰を見た。蒼白に変わった顔は愕然といった様子だ。
「その通りですよ…」
永峰は足を組んだ。その目は嘲笑していた。