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偽り
【その他 官能小説】

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偽り-8

「理名さんは広親氏にとっては、セックスだけの関係だったかもしれません。だが、彼女は違った。──愛しい人─だったわけですよ。
 私は危険だからやめるよう何度も忠告しました。だが、彼女は聞き入れなかった。──自分の手で証拠を掴む─といってね。
 たまらなかったと思いますよ。同じ顔をした別人に抱かれるのは…」

 永峰は悲しげな目を遠くに向けた。

「しかし……」

 全貌を聞かされても、宣親はまだ困惑の顔を緩めていない。

「未だ──納得出来ない─といった表情ですね」
「ええ…何故、彼女が3週間も前に見抜いたのか。先ほども言いましたが、私と広親はすべてが酷似してたんです。
 その上、私は殺害を思い立った時、あなた方警察の目を逸すため、広親の仕事やプライベートに及ぶ近況を調べ尽くしたんですから」
「宣親さん。あなたと広親氏は、異なる部分があるんですよ」

 永峰はそう言うと、また足を組み直す。宣親は真剣な表情で次の言葉を待った。

「ベッドプレイですよ」
「…ベッドプレイ?」
「容姿はともかく、仕草まで似る事に関しては、同じ生活環境下にある一卵性双生児なら十分にあり得る事だと思います。
 でもね、セックスというのは男女の共同作業です。そこには、相手とフィーリングを合わせる努力が必要になる。──後天的に覚える女性の扱い方──がね。
 特に多数の女性と付き合えば付き合うほど、それは経験となって表れてくる。これはいくら双子でも真似出来ませんよ。
 理名さんは言ってましたよ。──最初に肌が触れ合った瞬間、別人だと気づいた──とね」

 ──結局、最初から無理だったのか…。

 宣親の顔に、力無い笑みが浮かんだ。

「確かに。これではツメが甘過ぎますね」
「それを、ひと月前に気づくべきでしたね……」

 小さな窓の外から、朱色の光が射し込みはじめた。秋川宣親にとって、長い1日が終わろうとしていた。



…「偽り」完…


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