『真夜中のCrossRoad』-1
真夜中のCrossRoad 第1章 ?
『Autobahn−速度制限ナシ−』
俺―桜井明―は、いつも通り、通いなれた学校へと足を踏み入れた。もっとも、今日は休日である。今日は部活に出るために学校に来たのだ。陸上部に俺は入っている。汗だくになるのを見越して今日は練習用のTシャツを着ている。青地に赤があしらわれていて、なかなか気に入っている。俺が部室へと足を向けたとき。
「あ、桜井君」
呼び止められた。クラスメイトの石川恵梨だった。吹奏楽部のキャプテン。キャプテン、という呼び方で良いのかは分からないけど。今日は吹奏楽部の練習もあるらしい。
「おはよ」
とりあえず朝のあいさつ。こういう簡単なところから人付き合いは発展するのだ。
「ちょっと、手伝ってほしいことがあるんだけど・・・」
腕時計を確認する。もう九時四十分だ。あと少しで部活が始まってしまうが・・・。女の子の頼みは断れない。今日の部活はサボタージュさせていただこう。
「OK。手伝うよ」
「ありがとー。」
フワリ、と花が開いたように笑う石川。石川って、こんな風に笑うのか。微笑んだ顔は見たことがあるけど、笑った顔は初めて見た。教室ではいつもブスっとしてるからなぁ。いつも笑ってりゃあ美人なのに。俺の彼女である市原のことを思い出しながらそんなことを考える。ノロケニなってしまうかもしれないけれど、市原は顔のつくりからして相当な美人だからな。それと石川を比べるのは少し酷なことかもしれない。そう思ってボーっとしていると。
「桜井君」
「・・・・・・」
「ちょっと、おい、桜井ィ・・・」
そのどすが利いた声でハッと気付く。桜井のRAの発音が軽く巻き舌だった。RUA、みたいな感じ。しかも睨まれていた。こわいこわい。鬼瓦みたいだ。あんたは蛇か、とツッコミたかったが、睨み殺されそうなのでやめておこう。代わりに前から機会があれば言おうと思っていたセリフ―まあ、こっちは口説き文句に成ってしまうけれど―を言う。
「そんなにコワい顔してると、かわいい顔が台無しだよ」
石川は一瞬、少し日に焼けた顔をサッと紅く染める。
「な、なに言ってんのよ。―」
おそらくはやる気あんの、とでも続けようとした石川の頬に軽くキスをした。それだけだ。それだけで、石川は口を閉じた。ほんのり紅かった石川の顔色はいまやりんごのように真っ赤になっていた。
「手伝うんだから、報酬くらいはもらわなきゃね」
陽気に言ってみた。しかし、
「なにやってんの」
すごく怒られた。更にパチン、と音が響く。俺が平手打ちをされた音だ。何でこんなに怒られるのだろうか。さっぱり分からない。だから、きっと石川流の照れ隠しなのだろう。なかなか可愛いじゃないか。白状すると、俺はもうこのとき、石川を犯そうと決めていた。「もうあんなことしないでよ」
そういって俺に背を向けた石川を、後ろから抱きすくめた。以外にも細いわき腹。制服を着ているときは太って見えたけど、やはり俺の予想通り、着ぶくれするタイプだったようだ。今着ているのも制服だけれど。
「ちょ、ちょっと・・・。なにしてんの―」
「だからさっきも言ったじゃん。手伝うんだから、ご褒美くらいはもらわないと」
そういって、制服の襟に手を伸ばす。狙いは鎖骨だ。その上の、少しへこんでいるラインをそっと撫でる。石川がわずかに動く。
「や、やめっ・・・やめてよ・・・・・・」
無駄に動いても、意味なんか無いのに。
「恵梨、俺は君のことが好きだ。愛してる」
全部、嘘だ。嫌いとは言わないが、俺が本当に好きなのは市原三加、ただ1人だ。
「本当に・・・・君が大好きなんだ」
「本当・・・?」
問い返してくる石川。嘘だ――と心の中で返す。そして、
「君を、抱いてもいいか」
と訊く。
「桜井君が、私の事を愛してくれているなら」
「愛してるよ、恵梨」
俺は耳元でそっと呟くと、鎖骨から手をそっと下のほうへ這わせていく。制服の中に手を入れたら、胸の突起に直接指先が触れた。