ラプンツェルブルー 第5話-1
後悔している。それも半端なく。
「まさか『彼女』も来るなんてな……ってか、むこうもお前とおんなじみたいだけど」
僕の心情を代弁するかのような、同情と好奇心が半分ずつ混ざり合った傍らの囁きに、小さい溜め息で応え、泥のようなコーヒーに手を伸ばす。
カップをソーサーに戻して再び溜め息ひとつ。
後悔の種は……そう、時間を少し遡ったあの時から始まった。
「ゆったかくーん」
そいつはさっきから、クラブに向かう支度をする僕の席の斜向かいに陣取り、うんざりしている僕などお構いなしの説得攻勢を決め込んでいた。
「隣駅の女子校の件は相澤だって聞いてんだろ?……という訳で関わるのは嫌なの。他あたれよ」
「頼むよ〜。頭数足りないんだからさぁ。例のコ、お硬そうなんだろ?合コンなんて来ないだろうよ。だからさぁ?」
合わせた両手越しから僕に投げる上目使いの白々さが、僕をいっそう頑なにする。
大体、なんで足りない頭数を僕で補おうとするのかがわからない。それを言うと。
「もちろん他も当たろうと考えたけど、女の子ウケだってあるだろ?」
「……調子いいな。お前」「それ!褒められても手放しで有頂天にならない落ち着いたとこも良いわけよ!だから……なっ?」
相澤の口八丁には、どう切り返してもムダだろう。
「そうだ、寛。こないだ言ってたCD。あれ欲しいって言ってたよな?交換条件でどうよ?」
ひっくり返るどころか、クラブに遅刻、ランニングの周回数が増えるのは目に見えている。
つまり時間の無駄。
となると、僕の選択肢はひとつだけ。
「場を盛り上げろとか言わないから。寛はそういうの苦手だろ?」
ファスナーの音をたててカバンを閉じた。
大きな溜め息ひとつ。
「わかったよ。頭数に加わってやるよ」
そう、僕の選択肢は『YES』だけ。
「サンキュ、寛。そうこなくっちゃ」
「ただし、頭数合わせだけだからな」
僕の根負けによるあっけない交渉成立に気を良くした相澤は、話半分に頷きながら席を立つと、僕の肩を軽く叩き、更には握手を求めてその場から離れていく。
合コンの相手、結構レベル高いから期待してよ。
なんて去り際のフォローも忘れない辺りが、合コンの纏め役に抜擢される所以だろうか。
ともかく『期待して』なんていなかったのだ。
ただ、頭数を充足して時間をやり過ごせれば、それで良かったのだ。
なのに。
「千紗を助けてくれた人ですよね?」
ひと足先にカフェに揃っていた僕らにかかった第一声。
「有名人じゃん。寛」
背後から横からひそひそと冷やかす仲間を肘で小さく小突いてやる。
そこまでは良かったのだ。
「ほら、やっぱりそうだよ。千紗」
一団の後方から引っ張り出されたその姿に、僕は文字どおり固まった。
そして引き出されたその人も僕と同様だった。
僕らはろくに顔を見合うどころか、あさっての方を向いたままだ。