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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第5話-2

嘘だろ?

頭の内側からガンガンと打ち鳴らされるような衝撃に眩暈さえ覚えるほどだ。

僕らの様子に浮足立った周囲の空気が重くざわつき始める。
流石にそれに気付かぬわけもなく。
いたたまれなくなって、ほぼ同時に踵を返そうとした彼女と、席を立とうとした僕とをそれぞれの連れ合いが引き止めた。
「さ、さぁ、揃った事だし始めますか〜」
「そ、そうだねっ。よろしくお願いしまぁ〜す」

白々しいくらいに盛り上げる一同に、なし崩しに元の席に戻るしかなくて。
彼女たちが向かい合わせに席についてから、それぞれがオーダーし、僕と彼女を除いて順に自己紹介が始まった。

…で、冒頭に戻るわけだ。
「わたしたちは演劇部のメンバーなの……で、わたしと相澤君が同じところでバイトしてて、このコンパになったってわけ」

演劇部……か。確かに『レベルは高い』ようだ。
うちの学校に、こんなカンジの女の子たちはそう沢山いないから。

そうか、演劇部だったのか。

そろり……と彼女を見る。
毎朝電車でみかけていたあの頃ほど不機嫌さは無いが、俯き気味の表情は僅かに蒼い。
栗色の長い髪はきっちり編みこまれていて、それが首の長さを際立たせ、なんだかひどく心細そうに見えるのだった。

そうだよな。あんな目に遭ったんだ。
迂闊に髪もおろせやしないだろう。

あの日……と僕は思い返してみた。
あの時は、八つ当たりのような態度にムカついたけど、彼女の立場から察すると、僕に怒りをぶつける事で恐怖に崩れそうな自分を保っていたんじゃないだろうか?
固く編み込まれた長い髪が示すように、今もその傷は癒えてないのではないか。
女の子の心理なんてよく解らないながらも、そう考えると、胸につかえていた塊が溶けていくのと入れ違うように、傷心のまま初対面の僕らに引き合わされる彼女の不憫さと、周りの無神経さに対しての苛立ちとがないまぜになっていく。

気付けば僕は席を立っていた。
「……寛?」
「ゴメン。なんか頭痛いから帰るわ。……でも頭数足んなくなるよな。だから……」
僕の思考より先に手が
「アンタも調子悪そうだから帰れば?」
彼女を指差していた。

「俺らの分は払っとくから。悪い。お疲れ」
図星を突かれ凍りついたように固まる彼女を促して、突然の僕の強行に固まった一行を後にする。

僕の手が彼女の腕を捕ったままなのに気付いたのは、勢いに任せ通りに出てからだった。

「あっ……と。ゴメン」
慌ててその手を離し、帰るか?送るよ。と駅に向かって再び歩を進める。
今度は後ろからついてくる彼女に、およそ二歩分の距離をおいて。


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