『あたしのビョーキ』-7
細い目つきでコートの中を見渡す彼女。額に薄っすらと汗を滲ませるけど、あんまり汗をかかないほうかな? 羨ましい。
可愛い顔してよくやるよ。ことがバスケじゃなかったら、きっと好きになってたかも。っていうか、結構好きだな。こういう子。
試合中に女の子の品定めをするのは悪い癖。でも、こうでもしないと焦る気持ちを抑えられない。特に負けている試合では。
それにもう三回ファールを取られている。あと二回。なんとしても抜きたい。けど、石井は他の子のアップを指示しているし、もう交代かよ。歯がゆいね。
ん……!?
あたしの前に強引に割り込む受け子の胸に手が当たる。
わざとじゃないよ? でも、結構大きいそれを触ってると、試合中にも関わらず、うきうきする自分がいる。自重しろ、あたし! それにこれはファールをとられるパターンだ。
まあ、それならそれでいい。っていうか、仕返しもかねてやれ!
右手で受け子の身体を押しのける。もちろん主審に隠れて。ついでに手をグーに握ってやれ。
それでも受け子は前に出ようとする。あたしの顎の下辺りで揺れるお下げ。汗と一緒に流行のにおい消しが香る。
シトラスか。あたし嫌いなんだよね。
唯一嫌いになれる部分を見つけたあたしは、まとわりつく受け子をアウトから引き離し、島田ちゃんに再度手を振る。
笛の音は聞こえない。代わりに右手にボールの皮の感触がした。
あたしは一気にゴール下を目指す。受け子はいまだ追いすがるけど、体力勝負なら負けない。というか、それは他の子にも同じだ。
ハーフタイムまで、あと八十秒、あたしはコートを駆けた。
前半折り返しを迎えたところであたしは交代。
体力的にはいけるけど、ファール三つももらっていたのだから当然だ。
ひとまず水分補給にと島田ちゃんのペットボトルをもらう。
受け子も向こうのベンチで水分補給をしているのが見える。
まだ試合は終わっちゃいないけど、やるせない気持ちがある。
この勝負、あたしの負けだ。つか……、お尻も触っておけばよかった。
汗で張り付いた彼女の短パンを見ていると、おおよそスポーツマンシップに則らない感想が疼いた。
***―――***―――***
試合は結局大河内の勝利に終わった。
石井は今後の課題として皆に牛乳を飲むよう指示したけど、まあ冗談でしょ。
「どしたんです? 先輩」
石井ちゃんがビー玉みたいに丸い目であたしを見る。そういえばこの子のジュース飲んじゃったけ。いつも間接キスご馳走様。いつかその可愛らしい唇もいただきたいな。
「わかった。あの六番の選手、気になってるんでしょ?」
いや、今は君の赤い蕾をだね。
「ただファール誘うだけのラフプレー。卑怯です」
細い眉、多分剃ってるな? を歪ませながら言う彼女はまだまだ子供だ。純粋に楽しむためにプレイするわけでも、人々に感動を与える為にプレイするわけじゃない、勝つ為にプレイするあたし達は卑怯なんて言ってられない。というか、与えられた条件でスタメン入りした受け子は単純に尊敬できる。