【私のビョーキ】-14
「こらこら、急ぐと濡れちゃうよ」
そういう私も水しぶきを跳ねさせながら彼を追う。
ベンチもブランコも濡れている。だけど滑り台の台の下は屋根があるおかげで濡れていない。
レポート用紙を何枚か破り、シートの代わりにして座る。
雨が激しくなり、視界と聴覚を遮ると、外なのに二人きりの密室になる。
「俺、ここで暮らしたいな」
「それじゃあまるでホームレスじゃない。でも、アッキーとならいいかもね」
アッキーが私にもたれかかってくるけど、それって私の役じゃないの?
「ユッキーは俺の奥さん。絶対離さないんだ。絶対」
「私、待ってるね。アッキーが迎えに来てくれるの」
「うん。待っててよ。何年かかっても、きっとユッキーを迎えに行く」
「けど、あんまり遅いと浮気しちゃうかもよ?」
「いいよ」
「ん? 何でよ?」
そこは慌ててよ。っていうか、ほんとにしちゃうぞ?
「俺がユッキーを好きなんだもん。ユッキーが誰を好きでも関係ない。さらっていくんだ」
「そう、そうなんだ……」
子供らしい……のかな? でも、なんか悪くない。上手くいえないけど、それぐらい強くなってほしい。
「でも、俺……やっぱりユッキーと会えなくなるのヤダ」
彼の目から大粒の涙が零れだす。雫が線を成し、止め処なく流れ出す。
私だって泣きたいよ。でも、大人なんだから我慢するんだ。っていうか、中学生なんて子供だ。目の前の子一人慰める力も無いし、溢れる気持ちを抑えられないもの。
「泣かないでよ。私まで泣きたくなるじゃない。そんなことで私を迎えにきてくれるの?」
「だって、だって、俺なんにもできないんだもん」
「そんなことないよ。アッキーはがんばってるじゃない」
「俺、早く大人になりたい。辛いこと、嫌なことなんてぶっ飛ばしてやるんだ」
「大人になりたいの? アッキーを悲しませるのは大人だよ? それでもいいの?」
「うん。だって、ユッキーのこと刃焼く迎えにいきたい」
あ、そっか。でも、それなら、もう……。
「……ね、アッキー。私と一緒に大人になろっか」
「え? どうやって?」
きょとんとした顔のアッキーは見物だ。でも、不意打ちをされた私も同じ顔をしてたろうな。
「いいから、こっち来て……」
私は傘もささずに彼を導く。向かう先は誰にも見つからない為の秘密の隠れ家だ。
……ちょっと臭うけど。