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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてジュンかく語りき2-1

タキタの家から帰る道すがら、隣を歩く彼がこう言った。
「ジュン。周りには、僕らの関係は黙っていてくれませんか。」
なんとも理解し難い発言だったので、私は変な顔をした。
「なんで?」
タキタは困ったように笑い、きゅっと私の手を握った。
「お願いします。僕のためでなく、あなたのために。」
私のため?余計に頭がコンランしてしまう。一体、なんだってんだ。
家に帰ってダイスキな桃の香りがする乳白色のお風呂に浸かっていても、あの言葉が心を鷲掴みしていた。
「……ばかタキタ。」
ぶくぶくぶくぶくぶく。

久々の早朝授業だ。眠たい目をこすりながら、ぬくぬくの布団から顔を出す。
「……さぶィ。」
ジマンじゃないが、寒さにはめっぽう弱い。本当は午前中の授業なんて自主休講にしてしまいたいのだが、まだ冬ショーグンも来ていない時期から休んではナランだろうと思い直す。
「あ〜、今日は古語辞典がいるなぁ。」
ひとりごちてため息がでた。最近ずっとタキタと一緒だったから、ヒトリになると余計に寂しい。
冷えたジーンズに足を差しこむ。ぞくぞくという快感にも似た寒気を背筋に感じながら、身支度を整えた。
ドアを開けると、外はすっかり冬の匂いがした。胸いっぱいに吸い込もうとして、あまりの空気の冷たさに途中で止めた。吸った息をハアっと吐き出したら、白く曇ってから消えた。

巷では赤と緑のクリスマスカラーが氾濫する時期だろうが、こう田舎だとなかなかそうもいかない。正月よりも旧暦の行事の方がわかりやすい土地柄だ。
「ン。間に合う。」
左手首に巻いた時計を見ると、8時半を指していた。1コマは9時丁度から。私の家から学校までは、歩いて15分。ヨユーだ。大股で歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「純子ぉー!」
「お。」
小走りにやってきたのは、同じ日本文学専攻で1番の仲良し、茅野久美子。ミルクティーのように染め上げた髪が肩の上で揺れている。クミコは日本とどこかの血が混じったような顔立ちをしているので、その毛色がとてもよく似合う。
「おっはよぅ。」
にっこり笑うと片方のホッペにえくぼができるのだ。
「最近純子が遊んでくれんけぇ、あたしさびし〜んよ?」
口を開けるとお国なまりが出るところもかわいい。私は微笑みながらクミコに答えた。
「すまん。ちょいと野暮ヨーがあってな。」
そう言うと、彼女はふんわりチークをのせた頬をさらに紅潮させて、私の肘をこづいた。
「もーしーかーしーてーぇ!」
「ナ、ナニ?」
彼女はにんまりと笑いながら、小声で聞いてくる。
「デキたん?」
「いや、やや子は出来てないぞ!」
「ぃやーん!!やや子がデキるようなコトしよんじゃ〜っ。」
しまった、と口を押さえた時には遅かった。
あああああ。タキタには言うなって口止めされてたのにィ。
クミコはきゃっきゃとはしゃぎながら、『彼氏』の概要を聞いてくる。
「また、今度。ユックリ話すからっ。」
えーっと頬を膨らませたが、無理に聞き出そうとはしない。
私は彼女のそういうところが好きだ。心の中に入り込んでくる時機といい、すっと身を引くタイミングといい、本当に心地よい。

10分前となると、生徒数はまばらだ。後ろの方の座席を陣取り、授業前に手洗いを済ませようと講義室のドアを開ける。廊下へ出ると、前方から見慣れた身体の線が見えた。
ただ違うのは、かっちり後ろになでつけられた髪、黒縁のビン底眼鏡。
私は片手を挙げて挨拶しようとした。
「タキ……。」
私が言い終わる前に、彼はコッチには目もくれず通り過ぎ、講義室の敷居をまたいだ。
「………へ?」
そのまますたすた歩いて、前の方に腰を降ろす。昨日のタキタとは別人みたいだ。
「純子ぉ、どした?」
ボ〜然としている私にクミコが声を掛けた。
「あっ、イヤ。何でもナイ…。」
私の視線の先に気付き、クミコが耳打ちする。
「マジメ君が何かしたん?」
「いや。そう…じゃナイよ……。」
表面では笑いながらも、やっぱりショックはごまかしきれなかったようで、クミコはふうとため息をついた。
「マジメ君ねぇ…。純子が気に病むほどの存在じゃないと思うんじゃけど…。」
「あ……はは。そうだ、な。」
半ばヤケだった。
時間きっかりに教授が現れて、恙無く授業が始まった。しかし、ツツガあるのは私の頭の中。
ナニユエ、タキタはあのような行動を取るのか。
ナニユエ、私との関係をお日様の下に出したがらないのか。
ナニユエ、私はその約束を守ってしまっているのか。
ぐるぐると脳裏を巡る問いのせいで、授業はサッパリ頭に入ってこない。
1コマの時間が過ぎた頃には、私はぐったりと疲れ切っていた。
「おっ疲れさん。学食行こうや?」
机に突っ伏していた私にクミコが声を掛ける。私は大儀そうに頭をもたげて、彼が居た筈の席を見やる。
……もォ、帰ったのか。
「なんなん?純子ったら、マジメ君のことまだ気にしとん?」
マダも何も、私はいつもタキタのことを想っているのだ。
なんて言えなくて、私は慣れないウソをつく。
「どうやら風邪ひいたみたい。…コジれたら厄介だから、帰る。」
実際、頭がフル回転中でチエネツが出そうだった。
「えっ?大丈夫?」
「平気。」
いつになく抑揚の無い私の声に、クミコも表情を硬くした。
「……ゴメン。あとよろシク。」
それだけ言うと、講義室を後にした。


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