硝子の瞳(1)-3
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最後の授業が終わった直後に僕は帰り支度を終え教室を飛び出した。今日は掃除当番の日だったからだ。
何が悲しくて毎朝掃除をしている僕が、放課後掃除をしなければいけないのだ。いわゆるクラスメイトとの共同作業である掃除は、非常に面倒くさい為に大嫌いだった。サボる人間ばかりであるから、結局は一人でやる事になるのだ。だったら始めから一人でやらせて欲しいものだ。絶対に無駄だと、僕は断固としてそう思う。
逃げよう決めた直後、後ろから声がして振り返ると、そこには理美子が立っていた。
「水嶋くん帰るの?この後スタジオ入るんだけど、良かったら顔出さない?」
ベースを弾く素振りを見せながら理美子がそう言う。
「また教えて欲しいの。駄目かな?」
工藤理美子は三人組のバンドを組んでいた。ギターが少しおっとりしていて眼鏡をかけているゆいちゃん、ドラムがしっかり者でバンドリーダーの清美ちゃん。そしてベース&ヴォーカルの理美子。彼女らはまだ結成したての新米バンドで、ことあるごとに僕にレッスンを頼んでいた。
「別にかまわないけど、何時からかな?一旦家に帰りたいんだけど」
ちなみに、僕は制服姿でウロウロするのが好きでは無い。馬鹿みたいに見えるから。
「大丈夫、4時から7時までだから、それまでに顔を出してくれればいいから」
僕はわかったと一つ頷いて、彼女はやったと言わんばかりに笑顔を見せた。彼女が笑顔を見せるのは稀なことで、僕はなんだか良い事をした気分になった。
「ありがとう。じゃあ待ってるから」
そう言って理美子が走り去って行くのを見て、僕はいつしかの卒業式を思い出していた。彼女の背中が、何故か舞の後ろ姿とダブって見えて、僕はしばらく間その場から動けないでいた。