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硝子の瞳(1)
【青春 恋愛小説】

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硝子の瞳(1)-2



教室につくと一番にする事が掃除で、もはや朝の儀式となった床履きを僕はもくもくとこなしていた。
誰よりも早く学校に入り、隅々まで綺麗にする。窓から光が入り、もうもうと上がる埃が太陽に照らされキラキラと輝く様は、なかなかどうして素晴らしかった。
他にも、窓を拭き、机を並べ、ゴミをまとめて捨てる。黒板をピカピカになるまで磨き、散らかる本棚を整頓した。みるみる内に片付く部屋を見ていると、今日も一日がんばろうという気分になる。僕は掃除をしている自分が嫌いじゃ無かった。
掃除が終わる頃にはすっかり気分は落ち着き、僕は一日の元気を溜め込む様にゆっくりと本を読む事にしている。誰もいない教室で、ピカピカになったばかりの空気を吸い込む度に、僕は時として素敵な気分になれた。本の世界は僕を裏切らず、静寂は僕の親友でもあった。そんな平和な日常の朝を、僕はなによりも愛していた。

静寂が破られるのはだいたい7時半辺りで、その時間帯になると他の生徒達がちらほらと見られる様になる。朝練を始める部活も現れ、学校には元気な掛け声が木霊しはじめた。
僕以外の人間が教室に足を踏み入れるのは、決まって工藤理美子だった。彼女は規則正しく毎日8時ぴったりに扉を空けて、そして授業が始まる8時30分まで自分の席に座って動かなかった。授業が始まるまでの間に何があろうとそこを動かず、何事にもその場所で対処をした。
僕は毎日、理美子が現れてから授業が始まるまでのこの時間を、だいたい彼女と話す事で暇を潰した。一人で本を読んでいても良かったのだが、彼女と過ごす朝は楽しかったし気楽だったからだ。彼女と話している限り僕は余計な言動をする必要が無かったから、次々と来る他の友人達の相手をせずに済んだことは、僕にとって価値ある事実だった。
「おはよう」
「おはよう」
「今朝も早いんだね」
「水嶋くんには及ばないけど」
「そんな事ないさ。たまたまだよ」
僕は時として嘘をつくことがある。特に意味はないし、大体がアクシデントや邪魔くさい事をさける為に嘘をつくことにしている。今回はもっぱら後者。説明するのが面倒なだけだった。
「たまたま、貴方は早くに学校に来て、決まって掃除をするの?」
僕はびっくりして言った。
「知ってたんだ?」
「知ってるわよ。いつも帰る前より綺麗になってるなんて、水嶋くんしか出来る人いないじゃない」
「どうして?」
「どうしてって、貴方ねぇ。私は毎日この時間に学校に来るでしょ?その時間より前に学校についているの、水嶋くんぐらいじゃない。貴方以外に考えられないわよ」
僕は妙に彼女の台詞に納得させられることが多かった。そして彼女は多くのことに思慮深く気づいては僕に教えてくれた。
「水嶋くんがそうやって毎日掃除してくれるお陰で、毎日良い気分で授業が受けられる。感謝してる」
「今までにずっと掃除してきたけれど、そんな事言われたのは始めてだよ」
「あらそう?なら貴方の周りには、まともな人間はいなかったのね」

僕の周りには、まともな人間がいなかったのかもしれない。


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