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硝子の瞳(1)
【青春 恋愛小説】

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硝子の瞳(1)-6




練習を終えた後、理美子を家まで送り届けるのが何故か習慣になっている。彼女から言わせると「自転車乗れないんだし、仕方がない。乗れる人間が乗せれば、解決」だそうだ。僕はまた彼女理論に逆らう事が出来ず、結果今も彼女の感触を背に感じて自転車をこいでいる。
意識をしてない、と言えば嘘になるが、意識的にしない様にはしている。けれどそういう事ってなんとなく解る物で(たぶん彼女もそのつもりなのだろう)、彼女は僕の事を好いている様な気がしていた。そして今正にその真実を明かそうとしている。核心がある訳でもない。たんなる気苦労ならそれはそれで良かったりもする。僕は今の彼女との関係を気に入っていたから。
荷台に乗る彼女はどんな顔をしているだろうか。嬉しい顔?切ない?わからない。
僕はそよ風に吹かれた髪の毛とペダルの重さを確認した。大丈夫。しっかりと僕は混乱していた。
「水嶋くん」
風に紛れて微かに聞こえるのは、たぶん理美子の声だろう。僕は努力して意識を後ろに向け、彼女の次の言葉を待った。
「好き」
僕は急いで自転車を止めで、理美子の方を向いた。彼女の眼はいつかの硝子の眼みたいだった。うるうると浮かぶ涙。あぁ、こんな顔するだ、と僕は密かにそう思った。
その瞬間に、太陽が沈まんとする時間帯だった。こんな時でも僕はやはり舞の事を思い出した。僕が舞を好きなことや、大切に思っていたこと。その関係が終わってしまった事実や、それが僕を生かしている事実をもだ。
「水嶋くん?」
僕はその言葉が、始め僕に発せられた声なのか、それともなにか彼女の信じる物に対してなのかが解らず、パニクった。
「水嶋、く、ん?」
二度目の呼びかけで僕はやっと現実世界の扉を開けた。ハッと我に帰る。
「あ、……あぁ。ごめん」
「別の事、考えてた?」
「うん、ごめん。昔の事を、ちょっとね」
彼女は悲しそうな顔をして、でもそれは気にしてないといった調子で、そっか、とだけ言うと、後は黙った。僕の答えを待つみたいに。

僕に答えなどありはしないのに。


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