トースト・トースト-1
時はコズミック暦5505年。
大小の宇宙船が行き交い、様々な人種や文化が入り乱れる銀河系宇宙――ギャラクティカ。
宇宙海賊やトレジャーハンター達は財宝を求め、今日も星海を駆ける。
トースト・トースト
第1章 貰えない方がずーっと可哀想だと思うけど?
惑星ギャラクティカの中心都市、ギャラクティカシティ。
色街でもないのに、街のネオンはピンク一色だった。
ハート型の風船がそこここに浮かび、いつもの街とは違った雰囲気を醸し出している。
余計なことをする、とエイジは思った。
「バレンタイン、ねえ」
時は既に夕刻。薄暗くなった街にネオンが灯り出す頃だ。
特にこのギャラクティカウエストサイドのショッピングモールには、普段なら赤や黄色や緑に青、様々な色のネオンが輝き出す。
しかし、ここ一週間はモールにあるどこの店も、可愛らしいピンク色のネオンが灯っていた。
「下らねえ」
そう一言吐き捨て、彼は買い物袋を抱えながら、恋人たちの行き交うピンクの街を歩いていた。
明日――バレンタイン・デイは、女性が男性にチョコレートを贈り、愛の告白をするという日である。
このチョコレートを贈る習慣は、遠い昔ヤパーニアで広まったものと言われている。
おそらくヤパーニア出身の彼には、それが余計に腹立たしいのかもしれない。
雑多な文化の集まったギャラクティカで、そんなイベントの起源を気にする者など誰もいないのだが。
皆が思うのはただひとつ、楽しめればいい――それだけだ。
黒髪黒瞳を持ったヤパーニア出身の青年エイジは、ショッピングモールを抜け、イーストサイドのガラクタ街を歩いているところだった。
ここまで来ると、ピンクのネオンはまた別の意味になってくる。
ガラクタ街の顔見知りたちと軽い挨拶を交わしながら、彼の住処である第五居住区へと足を速めた。
四季のあるギャラクティカの冬は寒い。
冷暖房完備のショッピングモールとは違い、ここらは厚手のコートを羽織っていても凍えるほどだった。
赤色の派手な革ジャケットを着たエイジには随分と堪える寒さだ。
彼は首と肩をすぼめて歩いていた。
「よう、ただいま」
黄色い壁の住宅ビルの三階、エイジが壊れかけた扉を開ける。
「ふああ……あ、おかえり」
起き抜けなのだろうか。あくび交じりに、シアン色をしたポニーテールの少女が答えた。
彼女はエイジが抱えていた紙袋に興味を持ったようで、いそいそと背伸びして紙袋を覗こうとする。
「何も変わったもんなんか、入ってねえよ」
エイジは紙袋の中身をテーブルの上にばら撒いた。
「デニッシュに、ミルク、インスタントコーヒー……あたしインスタントコーヒーって苦手だな」
後半はぼそりと呟くように言い、彼女は更に袋の中身を物色する。
「お砂糖、スープヌードル――それにチョコレート?」
ひとつずつ中身を確認するように眺めていた少女が、ひょいと板チョコレート二枚を取り上げてにやりと笑う。
「この時期に男がチョコレート買うって、悲しくない?」
「そう思うんだったらな、お前が買い出し行けよ、ジャム」
ジャムと呼ばれた少女はチョコレートをテーブルに戻し、意地悪げに笑った。
「冗〜談! 今日の買い出し係はあたしじゃないもん」
からからと笑うジャムに、エイジは不貞腐れた表情で呟いた。