トースト・トースト-4
第2章 素直じゃないわねェ
「だからじゃないかしら、バレンタインが嫌いなのは」
ダナの、バレンタイン時のショッピングモールよりもファンシーな部屋で、ジャムは彼と話していた。
「賑やかなお祭ごとは嫌いじゃないなのに、参加できないから拗ねてンのよ。おまけに誕生日がバレンタイン・デイの一日後なのよねェ」
「まあ、貰えないっていうのも図星だと思うけどね」
砂糖入りのホットミルクを啜り、ダナが笑いながら言う。
ジャムはふうんと鼻を鳴らした。
「残念?」
くすりと笑いながらダナが言うと、ジャムは軽く彼を睨み付けた。
「どうして?」
「チョコレートあげられないじゃない。エイジだってジャムのなら欲しかっただろうし」
「別に!」
ダナの言葉にジャムがばっと立ち上がった。
その拍子に少しだけ、ジャムのホットミルクが零れる。
「ど、どうしてあたしがあんな奴にあげなきゃいけないの。あいつにあげるんだったら自分で食べるわよ!」
そう捲くし立て、ジャムはおやすみ! と一言残してダナの部屋を去った。
彼はやれやれといった様子で肩を竦め、まだミルクの残ったマグカップを持ち上げて呟きを漏らした。
「素直じゃないわねェ」
「まだ起きてたの?」
「ダナ」
冷めてしまったホットミルクをキッチンに置こうと、ダナが部屋を出る。
リビングを挟んで彼の部屋と相向かいになったエイジの部屋からは、明かりが漏れていた。
半開きになった部屋のドアを開けると、エイジは窓枠に腰掛けていた。
「どうした?」
そんなエイジの問いにダナは答えず、彼は部屋に貼ってあるポスターを見つめていた。
ダナの部屋とは違ってひどく殺風景なその部屋だが、ベッドの頭側に一枚だけ、紺色の髪をした少女のポスターが貼られている。
「まだこれ貼ってるの? 好きねェ」
「『銀河の歌姫』は俺ん中では永遠だからな」
彼は頭をがしがしと掻きながら、ダナを部屋に入れる。
それから少しだけ視線を泳がせて、躊躇いがちに問うた。
「ダイの……兄貴のこと、まだ」
「過去にとらわれてるってわけじゃないのよ」
自分の言葉を遮って言ったダナを、エイジは見やった。
「毎年あげてたでしょ? あんたと違ってチョコレート好きだったしね」
「習慣か」
そういうこと、とダナ。
「それにしても、ダイがいなくなってからもう三年も経つのねェ」
「ああ――……いや、やめやめ。辛気くさい話なんか、やめだ」
エイジは首と手を振り、話を切った。
ダナはふっと微笑むと手を組んで壁にもたれ掛かる。
「そうね。明るい話――バレンタインの話でもする?」
「お前、喧嘩売ってるだろ」
ダナの言葉にエイジが顔を顰めた。
「今年はひとつくらい、貰えるんじゃない?」
「馬鹿にしてるけどな、俺だって毎年チョコレートは貰えんだぜ?」
「誰に?」
「去年だとバスタ・カフェのチノに、マキアに……」
「義理じゃないの。しかも、誕生日プレゼントと兼ねた」
食べられなくとも、やはり貰えるだけで嬉しいものだろう。指折り数えるエイジを見つめながら、くすくすとダナは笑う。
彼の言葉に、エイジは不機嫌そうな顔を向けた。
ダナは暫く考える仕草をしてから、含んだ物言いで口を開く。