そして私は俺になる-8
最近の俺は全てのものに脅えている。人と会うのが怖かった。番長も、キョウも、岡安も怖かった。体中が音を立てて震えそうだ。そして、俺はそれを必死に堪えた。家にいても、学校にいてもこの時の俺は常に脅えていた。
俺は悪くない。ババアが勝手にぶつかってきたのだ。だから、いつもみたいにしていればいい。それでも、ババアが歩けなくなったことは事実だった。俺は一人の人間の人生を台無しにしてしまったのかもしれない。とんでもないことだった。俺は重罪人だ。
そう考えると、重罪人である俺を見ても知らん振りしている周りの奴らが不気味だった。何を考えているか俺にはわかっている。みんな平静を装っているが、内心では俺のことを軽蔑しているのだ。
だから、俺は脅えた。一日中脅えて、夢の中で脅えて、朝起きて脅えるという日々が続いた。怖かった。誰かに救いを求めたくても、重罪人である俺を救ってくれる者などいるはずがない。
そんな日々が一月も続くと、次第に何に脅えているのかわからなくなってしまった。それでも、恐怖や不安の度合いは増す一方だった。
最近のキョウは岡安と一緒に帰る。だから、俺は一人で帰るしかなかった。日の入りの早い冬の帰り道は驚くほど暗く長かった。そして俺はその道をひどく脅えながら帰るのだ。
ある日、珍しくケイスケと一緒に帰った。キョウにカノジョができてから、俺たちは自然とバラバラになっていた。孤独な帰り道にうんざりしていた俺は、一緒に帰るのが反りの合わないケイスケでもうれしかった。
「おめーさ、いつも一人で帰ってないで声かけろよなー。なんか、最近のおめー、変じゃね?」
ケイスケの言った変という言葉は俺をひどく不安にさせた。体が震えそうになるのを必死に堪える。バカだと思っていたケイスケが怖くて仕方なかった。
「そ、そうかな? 俺のどこが変なんだよ?」
俺は歯がガチガチ鳴るのを隠すためにわざと早口で言った。それを見たケイスケが、どう考えても変だろーとか言って腕を組む。
「てか、おめー。まだカノジョ作らねーとか言ってんの? もうおめーだけだぞ、カノジョいねーの」
「カノジョいないと変なのか?」
「変だって。だいいち不気味だ」
そうか、変なのか。だったら、一刻も早くカノジョを作らなければ。
「じゃあ、カノジョ作ろうかな。それで、誰がいいかな?」
「おお、ついにテツもやる気なったか。おめー、結構女子の人気高いんだから、早く作ればよかったんじゃね?」
「俺が? なんで?」
「うーん、なんでだろうなー」
少し考えてみると答えは簡単だった。俺がキョウの親友だからだ。