そして私は俺になる-6
キョウが教室に帰ってきて、俺たちに告白したと言った。返事は少し待ってくれと言われたらしい。
「おお、すっげー。どんな風に告ったん?」
ケイスケが興奮して聞いた。俺はその横で気分がどんどん沈んでいくのがわかった。
「まあ、その辺は帰りながら話すよ。早く帰らないと、塾だもんな? テツ」
「ああ、今日も番長とバトルしないとな…」
そう言って、カバンを持とうとした時、これでいいのかと思った。なぜか激しく岡安に会わなくてはいけないような気がした。
「悪い、ちょっと先に帰ってて!」
「おい、どこ行くんだよ?」
ケイスケの呼び止めなんか効くはずがなかった。俺は廊下を走ってはいけませんなんてクソ食らえの勢いで五組まで走った。途中、不良の池沢君に思い切りぶつかったが、そんなこともお構いなしだった。
「岡安!」
自分の机で帰り支度をしていた岡安が驚いて俺を見る。
「何? 急に」
「あのさ…」
「どうしたの?」
「キョウに告られたんだって?」
俺がそう言うと、岡安は辺りを見回して、下を向いた。そしてそのまま、俺から目線を逸らせたまま、うなずいた。俺はその時、岡安が笑っていたような気がした。そう感じてしまった俺は、そのまま何も言うことができなくなった。どんな時でも、俺の舌は自分でも驚くくらいによく回る。それでも、この時は違った。それどころか、頭の回転さえも止まってしまった。ただ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「…じゃあ、私、もう帰るね」
どのくらい俺が止まっていたのかはわからないが、だいぶたってから岡安はそう言って、カバンを抱えて教室から出て行こうとした。
「…岡安」
なんとか声を出して岡安を呼び止めたものの、俺が次に何を言おうとしているのかに気がついて絶望した。
「キョウ、いい奴だからさ。よろしくな」
岡安はそれを聞くと、うれしそうに頷いた。
岡安がいなくなった後も俺は岡安の机のそばで立ち尽くしていた。俺は自分がダサすぎて死にたくなった。岡安に会わなければならないと感じたとき、変な期待を抱いていた自分のことを考えて死にたくなった。岡安の前で気持ち悪くフリーズしてしまったことを考えて死にたくなった。