レッド・レッド・レッド-3
「あたし、知らなかったよ……」
ジャムの声は震えていた。
「自由になれたと思ってたのに……お爺ちゃんみたいに、宇宙を飛べると思ってたのに……!」
溢れる涙を手の甲で拭い、ジャムは絞り出すように言った。
「あたしが家を出た時、リムは快く見送ってくれたじゃない……」
彼女が知るには、些か重い事実だった。
「あれは、真っ赤な嘘だったの!?」
「騙すつもりでは、なかったのです」
頬を押さえたまま、リムは頭を下げた。
そして彼女はゆっくりと顔を上げ、スカートの右ポケットから取り出したハンカチをジャムに差し出した。
「けれど、結果的に騙してしまったこと、申し訳ありません」
ジャムはしゃくり上げながら、ハンカチを奪い取るようにリムから受け取った。
「分かって下さい。わたし達は、あなたが心配なのです」
「ひっく……ひっく……」
「わたしと一緒にお帰り下さい、お嬢様」
その言葉にふるふると首を振るジャム。
リムが優しくジャムの肩を抱き寄せた。
「申し訳ありませんが、今回ばかりはわたしの言葉に従ってもらいます。お嬢様、一度お屋敷に帰りましょう」
「ちょっと待て」
エイジが声を上げた。
「ジャムの意志は無視かよ! お前も侍女なら、こいつの悩みだって知ってるんだろ!?」
「お嬢様の安全が第一です」
振り向かずに、リムは言った。
有無を言わさぬような物言いだった。
しかし。
「リム」
ジャムはリムの腕を優しく解くと、赤く腫らした目を擦り、首を横に振った。
彼女はエイジ達の元へ駆け寄り、にっと笑みを浮かべる。
無理やりにつくった笑みではなかった。
「あたし、リムがあたしを心配してることは知ってるよ。パパが心配してることも……知ってる」
「それでも、あたしはこの広い世界を、自分の目で見てみたいの」
ジャムの言葉に、リムが少しだけ顔を俯かせた。
「屋敷の中での生活は確かに『生活するなら』心地いいの。着るものも食べるものも、全く困らないし」
ジャムはそう言って再びリムの元へ歩いていくと、俯いた彼女の顔を覗き込んだ。
そして顔を上げたリムに向かって、首を小さく横に振る。
「でも、それだけ。窮屈すぎるの、あそこは」
ジャムはあくまで笑みを浮かべて言った。
「『生きる』なら、もっと自由に生きてみたい」
「リム……だったかしら? あなたの負け、ね」
ダナが鉄格子越しに声をかける。
「多分あなたが知ってるより、今のジャムの方がずっとキラキラしてるンじゃない?」
リムは口を噤み、ジャムの顔を見つめた。
「……俺達みたいな半端もんは、飯食うのもギリギリってことはざらなんだぜ」
エイジが言って、傍らのダナと顔を見合わせて笑った。
「肩書きがなけりゃ、金もない。けどな、何だってできる」
「だから楽しいのよ」
ダナが言って笑った。
「ギャラクティカの地下カジノで儲けんのも大枚スるのも、ディオニシスで大酒飲むのも」
「ラグーンの海底遺跡でお宝見つけるのも……やりたいと自分が思えば、何だってできンのよ」
エイジはジャムに向かってにっと口元を吊り上げた。
「生きるんなら、やっぱり好きに生きたいだろ?」
「こいつは、そういう思いが人一倍強いんだと思うぜ。冒険家マーマレイドの血を引いてるだけあって、な」
生きることって、どんなことだろう。
ものを食べて、眠って、働いて、遊んで……でも、それだけじゃないよね。
生きることって、きっと自分が輝けることじゃない?