レッド・レッド・レッド-25
「あぐ……ッ!!」
「! エイジ!」
レッドのヒールは、エイジの右手の甲に振り下ろされていた。
右手にめり込んだヒールが、エイジの腕に激痛をもたらす。
正気に戻ったダナは、自分の目を潰そうとしたレッドとそれを阻止すべく手を伸ばしたエイジとを交互に見やる。
「エイジ、あんた」
「間一髪……」
それだけ言って、エイジは右手の激痛に顔を歪ませた。
レッドはち、と舌打ちしてエイジの顔を蹴り付けると、その場から離れて距離をとる。
「ローゼンロット――!」
痛みに蹲るエイジを傍らに、ダナは首に巻き付けられ食い込んだ鞭もそのままで、怒りにレッドを睨み付けた。
しかし――
「そこまでだ!」
スカーレットが高らかに声を上げる。彼女はエイジのナイフをジャムの首元に当てていた。
「こいつの血で、『若返りの水』は頂くぜ!」
「ッ!」
エイジが離れた際に、すかさずそのナイフを拾い上げ、ジャムを襲ったスカーレットの機転と素早さ。
エイジはそれに舌を巻きながらも、自分の失態に歯噛みした。
「くそ……」
「エイジ!」
ジャムは首にナイフを当てられながらも、あたしは大丈夫だからとでもいうふうに頷いてみせた。
しかしいくら彼女が気丈にふるまっていても、安堵はできない。
エイジとダナは苦々しい表情を浮かべて、ジャムを見つめていた。
ルビィはじゃらりと鎖を鳴らしながらジャムに近づき、にっこりと笑みを浮かべた。
「恨まないで下さいですぅ」
「恨まないでいらいでかッ! あんた達、マヌゥ・シーチではよくもやってくれたわね! 絶対お返しに一発殴ってやるんだから!」
ジャムがルビィとスカーレットに噛み付くと、すかさずスカーレットが刃をちらつかせながら釘を刺す。
「黙りな、お嬢さん。今すぐに喉元掻っ捌かれたかねえだろ?」
「………」
これにはジャムも黙るしかない。
レッドはよくやったと妹達を労い、ジャムの元まで歩いていくと、彼女の細い顎を持ち上げた。
「これでようやく赤き雫とやらを捧げられる」
顔を背けようとジャムは首を捩るが、しかしすぐさまそれはレッドによって阻まれる。
レッドはジャムの顎を掴み、喉の奥から低い笑いを漏らした。赤い唇が弧を描く。
「そしたら、『若返りの水』を手に入れて」
「チュール嬢を人質に身代金をたんまり請求して、我々バーミリオン三姉妹は大金持ちですぅ!」
ルビィが嬉しそうに言って、スカーレットと顔を見合わせる。
レッドは高らかに笑い、声を張り上げた。
「赤薔薇に宿る闘争は!」
「「我らが美がため!」」
レッドの言葉にスカーレットとルビィが声を揃えて言った。
「『若返りの水』はこのローゼンロット海賊団が頂くよ!」
言ってレッドがスカーレットに目配せする。
スカーレットは頷き、ジャムの頬にナイフを入れた。
「!」
ぷつりと肌が裂け、ジャムの頬に赤い血の雫が流れた。
「止めろ! 俺の血でもくれてやるッ!」
エイジが思わず声を上げるが、レッドは彼の言葉を鼻で笑った。
「生贄と言ったら生娘に決まっているだろう?」
そう言って杯を見やる。ジャムの頬から流れた血が、今まさに杯に落ちるところであった。
ぽたり、と一滴めの雫が杯に落ちる。顎を伝って、ジャムの血が杯を潤していった。