レッド・レッド・レッド-23
「わぁ、うっかり当たったらやばいですぅ」
「当たらなきゃどってことはねえさ」
「ですねぇ」
スカーレットはそう言って、長く赤い舌を出し、鞭の柄を舐めた。
「ぶっ放すのが早いぜ、兄さん。三人でやんのもいいけど、それじゃタマが持たないだろ? 残念だけどあたしひとりで我慢してくれよな」
「大きくったって、扱う本人の腕がなきゃダメダメですぅ。あなたじゃ、姉さんに一発当てるのも難しそうですぅ」
「……色んな意味で傷つくぜ」
エイジは苦笑して再び銃を構える。
しかし、確かに彼女達の言うとおりこの銃での応戦は難しそうだ。
命中率が悪いのは、銃と今のエイジの腕前を見れば分かる。彼女達の牽制にはなるまい。
「エイジ、あたしレイガン持ってる」
エイジの後ろでジャムが囁くように言うが、エイジは後ろを振り返らずに言った。
「バカ、それはお前が持ってろ! 俺は俺で、何とかする」
言うと、彼は躊躇いながらも腰のナイフに手をかけた。
接近戦が苦手というわけではないが、これでふたりと戦おうとすれば、ジャムを放っておくことになってしまう。
しかし、迷っている暇はない。
「悪ぃが、ジャム。お前レイガンであの三つ編みの方の足を止めとけ。俺は先にあっちを片付けてくる」
言って、後ろ手にナイフの柄を掴んだまま、スカーレットの方を向いて構える。
エイジが視線だけををちらりと後ろに向けると、ジャムは了解というように大きく頷いた。
「!!」
突然、エイジが地を蹴ってスカーレットの懐に入った。
彼が右から左へと振ったナイフの刃が、後ろに仰け反るように退いたスカーレットの赤い前髪の何本かを地面に落とす。
スカーレットは仰け反ったまま地に手をつき、後方転回しながらエイジとの距離をとった。
「ああ、びっくりした。そんなの隠してたのかよ」
「こっちの方が、飽きがこなくていいだろ」
「分かってるじゃん。焦らされるより、積極的な攻めの方があたしは好きだぜ」
スカーレットは言うと、エイジに向かって走り出すと同時にバラ鞭を振り上げた。
「げッ」
エイジは右に飛び退いてそれを避け、思わずそんな声を上げる。
(は、速……ッ!?)
しかしそんなことを考えている暇はなかった。
エイジが右に飛び退いた時には、既に彼女の足がエイジの左肩を捉えていた。
左腕でスカーレットの足を止めたものの、鋭い痛みがエイジの前腕を襲う。
「ぐッ」
「まだまだッ!」
スカーレットが振り下ろしたバラ鞭が、エイジの頬を打った。
衝撃で地面に倒れ込むエイジを、スカーレットはサディスティックに笑いながら見下ろす。
エイジはすぐさま立ち上がると口の中に溜まった血混じりの唾を吐き、彼女と距離をとってナイフを構える。
鞭も蹴りも、それ自体はそこまで攻撃力のあるものではないが、スカーレットの素早い動きはエイジに反撃する間を与えない。
じりじりと互いに距離をとりながら、エイジは考える。
(けど、所詮は女だ……!)
意を決してエイジが一歩踏み込むのと、それは同時だった。
スカーレットの身体が視界から消えたと思ったその瞬間、エイジの左膝に鞭が放たれた。
体勢を低くしてエイジの懐に飛び込んだスカーレットは、エイジの体勢を崩すと彼の胸倉を掴む。
そして右手に持ったバラ鞭を逆手に持ち替え、柄でエイジのこめかみを打つ。
「弱いぜ、兄さん。男を虐めるのは好きだけど、もっと抵抗してくれなくちゃ」
笑うスカーレット。彼女は余裕のある表情で、胸倉を掴んだエイジを見下ろした。
こめかみを打たれぐらぐらする頭で、しかしエイジは自分の胸倉を掴んでいるスカーレットの腕に手をかける。
「舐めんなよ……ッ」
ぎり、とエイジはスカーレットの左腕を掴んだ。
「な!?」
スカーレットは痛みに顔を歪め、腕を引っ込めようとする。
いくら傷を負っていたとしても男である。エイジの力に勝つことはできなかった。
エイジは右手に持っていたナイフを口に咥えると、両手で更に彼女の腕を握り潰すように力を入れる。
「あうッ!」
ついにスカーレットの左手が捻り上げられる。
エイジはすかさずスカーレットを地に伏せさせ、もう一方の腕も押さえ付けてしまうと、咥えていたナイフを彼女の首筋に突き付けた。