過激に可憐なデッドエンドライブ-9
「貴様、マグダ姫の」
「おお、ボクたちのご先祖様の名前をよく知ってるね。そうだよ。ボクはマグダ様の子孫、三代目ドラクロワ家当主、ヨシュア・ドラクロワっていうんだ」
ヨシュアと名乗る男が、芝居のように仰々しく頭を下げた。
「マグダの子孫と言うことは、さぞや私たちを恨んでいるのだろうな」
相手の真意が読めずに、挑発をする。
私が人間界にいることはキョウコしか知らないはず。あるいはそのキョウコが知らせたのかもしれない。しかし、ホムラではなく、マグダになぞ助けを求めるだろうか。しかも、こんなふざけた奴に。
「とんでもない。エターナル・スレイブ永久制約術式をかけられた焔家ならともかく、ボクたちはアナタたちに忠誠を誓ってるんだから」
ヨシュアは早くもボロを出した。
「では、誰に私のことを頼まれた?」
ヨシュアは再度頭を下げながら、虫唾の走ることを口走った。
「アナタのお兄様、にだよ」
それは今一番聞きたくない名前。
一瞬で全身の血が頭に上るのがわかる。
無意識に飛び掛っていた。
「私が、今回の下手人が誰か知らぬと思っているのか!」
言いながら、爪で男を薙ぎ払う。
「うわっ」
必殺の間合い。しかし、爪が切り裂いたのは、何もない空間だけだった。
ヨシュアは人間離れしたスピードで避けたのだ。
「上か!」
逃すまいと、全力で地面を蹴る。
路上には纏っていたボロだけが、ふわりと残されていた。
日が沈み始めた赤い大空を、一陣の風となって舞う。
その都度、私の爪が、あるいはヨシュアの剣が、夕焼けにギラリと反射した。
縦、横、斜め、全ての方向から繰り出される攻撃。
それを受けては流し、反撃する。
風の臭いがする大空で、爪と剣が重なり合う音が、鋭い音となって響いた。
「大人しくしていればやさしくしてあげたのに!」
「舐めるな、下郎! この私を易々と倒せると思うな」
空中で離れては交差する。
その度に激しい金属音が生まれた。
「武器も持たずに、このボクに勝てると思っているのかい」
愛用の剣は、異空間転移を受けた際に消えていた。
「貴様なぞ素手で十分だ」
立て続けに、爪を閃かせる。どれも無駄のない鋭い攻撃だ。
「あはは、甘い甘い」
しかし、ヨシュアは余裕の笑みさえ浮かべ、全てを剣で防ぎきる。
「くっ」
悔しいが、この男は強い。
でも、こんなところで負けるわけにはいかない。
「貴様なぞに!」
右手を一閃。
「いいねえ。凄く綺麗だよ!」
じゃきっという耳障りな金属音。全身の力を込めた一撃があっけなく防がれる。
「アナタは僕のものだ! アナタを手に入れて、僕をバカにした奴らを見返すのさ」
煌くヨシュアのレイピア。
上段。上段。下段。突き。右。右。左。下。上。突。突。斬。斬。
息を飲む連続技。
必死に喰らい点く。
「ま、負けるわけには!」
男の斬撃のスピードは火の出そうな勢いで加速していった。