過激に可憐なデッドエンドライブ-63
「キョウ、私が援護する。三分持たせろ。テツヤを取り戻すぞ!」
リリムレーアは信じられないものを見た。
力なき人間が、最強と言われる魔人に殴りかかったのだ。
自分ですら、諦めていたのに。
命儚き人は必死に足掻く。たとえ不可能とわかっていても。
その姿のなんと美しきことか。
諦めるだけの自分が情けない。キョウが喰らいつくなら、私も足掻こう。一人で駄目でも二人なら―。
「舐めるな!」
アシュラが手を振り下ろす。いつものテツヤの動きに比べれば随分遅い。受けるまでもなくかわせる。
横に最小限のステップをしながら、身体が悲鳴をあげる。激痛に蹲ってしまいそうだ。
耐えろ。手足がもぎ取られているわけじゃない。我慢すればすむのなら、耐えろ!
誰に負けてもこいつにだけは負けちゃいけない。
血が出るほど歯を食いしばって左の刻み突き。
「甘い」
しかし、左が貫いたのは空間だけだった。陽炎のように揺らめいたアシュラは流れるように横に回っている。
頬を掠めるアシュラの一撃。寸前で顎を引いて避ける。
「くう」
アシュラの周りの空気が歪む。高熱によって空間が歪曲していた。
「力の差を思い知れ」
揺れ動くアシュラ。まるで残像を残すかのように、大気を歪ませて華麗な連続攻撃を仕掛けてくる。
右。右。左。払。左。左。右。蹴。右。上段。右。突。左。左。肘。
アシュラの拳がぶれてかわし切れない。半分は貰っている。
圧倒的な力の差。その力は恐怖以上に、キョウに憧れを抱かせた。
それはキョウがずっと求めてやまない、絶大な力だった。
「何をしている。死ぬぞ」
複雑に動くアシュラの右手。
「ダンサーズクリムゾン紅蓮演舞」
キョウの足元から蛇のように細い炎が伸び、その全身を絡めとろうとする。
「させぬ!」
キョウを包み込む淡い光り。
「あの女!」
リリムレーアは両方の掌を複雑に動かし続けている。片方でキョウの援護、もう片方でアシュラを封じる為の術式。一度に二つの術式を発動させる高等技術だった。大量の血液を失った身体には堪えるのか、吐く息は荒い。
「うおおお!」
リリムレーアのその姿を見たキョウが動く。リリムレーアの負担を増やすわけには行かない。
「まだ懲りぬのか! 死に損ないが!」
アシュラを包む陽炎が勢いを増す。
魔人と人間の壮絶な打ち合いが始まった。
回し蹴りと右肘。左ストレート。顔面すれすれ。回転をつけた裏拳。直撃するも構わず右ストレート。頭突き。出血。左。払。蹴。打。突。肘。右。右。
アシュラの残像攻撃。キョウの顔面を鋭く捕らえる。
あの日を思い出せ。誓ったんだ。
どうせ死ぬなら戦って死ぬ、と。
「負けるかああ!」
顔面にめり込んだアシュラの拳を押しのけるように突進。
零距離射程。
爆発するように右足がアシュラの顔面に伸びた。
「ぐぬう!」
視界の外から飛んで来た上段蹴り。
「離れろ、キョウ!」
叫ぶリリムレーア。瞬間、キョウが飛びのく。
「エターナルスレイブ永久制約術式!」
刹那、アシュラの双眸が黒地に金色の瞳に変わる。竜族に従属する事を示す証だった。
「しまった! この呪があったか。だが、貴様のような小娘に我を従属させることなどできぬわ!」
「そんなこと望んでない! 貴様の動きを止めるだけで十分だ」
強制的に従属させられる呪。その呪を発動させただけで、アシュラは抗うのに精一杯で、動けない。